これで打ち止めか? 加熱式タバコ、10月の値上げ

 タバコ各社が財務省に対し、2022年10月からの新型タバコ(加熱式タバコ)の値上げを申請した。2018(平成30)年から、たばこ税が段階的に上げられ、それに追随してこの5年、新型タバコが値上げされてきた。たばこ税、今後はどうなるのだろうか。

なぜ段階的に値上げしてきたのか

 すでに、アイコスを輸入販売するフィリップ・モリス・ジャパン(PMJ)、プルーム・テックを製造販売するJT(日本たばこ産業)が財務省に新型タバコの値上げを申請した。タバコ製品の小売り定価の改定については、たばこ事業法という日本独自の法律により、タバコ会社が申請をし、財務大臣の認可を受けることになっている。

 申請が認められれば、フィリップ・モリス・ジャパンは49銘柄で一律1箱あたり20円、JTは銘柄によって20円から30円の値上げとなる。また、グローを輸入販売するブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン(BATJ)も値上げの申請をするようだ。

 喫煙率の低下にともない、値上げによるタバコの販売量の低下を加味しつつ、国はタバコにかける税率を上げてきた。税率が上がればタバコ会社は値上げを申請し、ほぼそれは認められてタバコの価格が上がる。

 加熱式タバコなどの新型タバコがシェアを伸ばす中、国は加熱式タバコに新たな課税区分を設け、紙巻きタバコとは異なった課税方式にしている。また、平成30年税制改正により、加熱式タバコは2018年10月から2022年まで毎年10月に段階的に増税してきた。一方、紙巻きタバコの段階的な増税は、すでに2021年10月で終了している。

紙巻きタバコの税率の変化と「重量」と「価格」による加熱式タバコの税率の推移。平成30年税制改正では2022年10月が加熱式タバコを含めたタバコ製品の増税の最後の年となる。財務省「消費課税」ホームページより。
紙巻きタバコの税率の変化と「重量」と「価格」による加熱式タバコの税率の推移。平成30年税制改正では2022年10月が加熱式タバコを含めたタバコ製品の増税の最後の年となる。財務省「消費課税」ホームページより。

 喫煙率が下がってくるに従い、紙巻きタバコの販売数が減少してきた。タバコ会社が作った日本たばこ協会は紙巻きタバコの販売数量を公表しているが、加熱式タバコのような新型タバコのデータは出していない。国税庁の統計年報によれば、紙巻きタバコ以外の製造タバコ、つまり加熱式タバコの課税数量の割合は、2013年度の0.1%が2020年度には28.3%になっているという。

たばこ税等の税収と紙巻きタバコの販売数量の推移。財務省「たばこ税等に関する資料」ホームページより。
たばこ税等の税収と紙巻きタバコの販売数量の推移。財務省「たばこ税等に関する資料」ホームページより。

これで最後になるのか

 商品の価格には弾力性、つまり価格が上がると消費が減るという相関関係がある。価格弾力性の基準値は1なので、それ以上なら価格弾力性が大きくなり、価格が上がれば消費が減る。生活必需品は価格弾力性が小さく、ブランド品などの贅沢品、趣味に関する商品などは価格弾力性が大きいとされる。

 タバコの価格弾力性は、ほぼ0.3~0.4と考えられている。生活必需品ではないが、なかなかやめられないタバコは価格弾力性がかなり小さな商品ということで(※1)、タバコは値上げをしても売り上げは減らず、売上高が期待できる。実際、喫煙率が下がってきても、それを値上げ分が吸収し、たばこ税収はほとんど影響を受けていない(※2)。

 では、平成30年税制改正によるタバコの値上げは、2022年で最後となるのだろうか。

 税制の改正は、予算編成の作業と並行し、政府の税制調査会と与党の税制調査会が税制改正の要望などを検討・審議し、与党の税制改正大綱を踏まえて閣議決定され、たばこ税などの国税に関しては財務省が改正法案を作成して国会に提出する。その後、衆参両院の財政金融委員会か総務委員会で審議され、本会議へ出されて採決され、可決されるとその改正法が成立する。

 たばこ税が段階的に引き上げられてきた背景には、2019年10月に実施された消費税10%増税が関係する。紙巻きタバコの増税が2019年だけなかったのはそのためだが、タバコ会社は増税を理由に段階的に値上げできるから、消費の動向をうかがいつつ、喫煙者の離反を食い止めることが期待できる。

 平成30年税制改正による加熱式タバコのたばこ税の見直しは2022年10月が最後となるが、財務省によると今後、税制改正が行われれば、たばこ税の負担の見直しが実施されるかもしれない、という。ただ、たばこ税に関する課税見直しの要望は、現状まだどこからも出されていない。

 タバコの販売本数がこれ以上減っていくと新たな課税見直し案が出てくるかもしれない状況だが、たばこ税収はあまり減ってはいないようだ。財務省としても、極端に税収が減少しない限り、様子見といったところだろう。

 コロナ禍は収束の気配をみせず、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、物価高が生活を直撃している。懐が寒くなる喫煙者は、この際、禁煙して浮かしたタバコ代を他に使ったほうが、経済的にも健康にも良さそうだ。


※1:伊藤ゆり 等、「たばこ税・価格の引き上げによるたばこ販売実績への影響」、日本公衆衛生雑誌、第60巻、第9号、2013

※2:Corne van Walbeek, et al., “Analysis of Article 6 (tax and price measures to reduce the demand for tobacco products) of the WHO’s Framework Convention on Tobacco Control.” Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2018-054462, 2018