欧米各国が「大麻」を解禁する本当の理由

 大麻が再び若年層を中心にして広がっている。欧米では大麻合法化の動きが加速し、犯罪意識も低下していることもあるが、大麻が安全という誤った知識の影響も大きい。欧米で大麻が合法化されているのは、けっして安全だからではない。この記事では主に欧米での大麻合法化について述べる。

若い世代に広がりつつある大麻

 大麻取締法違反容疑の逮捕者は、2009年にも検挙数が増えたが、ここ数年で再び増え始め、警察は警戒を強めている。警察庁は2019年4月9日、全国の警察に対し、刑事局組織犯罪対策部長名で「大麻事犯の取締まりの徹底等の継続について」という通達を出した。これによれば、大麻事犯の検挙人数は2年連続して過去最多を更新するとともに大麻が暴力団などの反社会的勢力の重要な資金源になっており、取り締まりを強化徹底し、効果的な広報啓発活動を引き続き実施するとしている。

 警察庁の組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課の資料(※1)によれば、大麻事犯の検挙人員は、2018年上半期と2019年上半期を比較すると1690人→2093人と大きく増加し、特に20〜29歳が41.8%→43.6%、20歳未満が11.7%→13.5%となっている。また、大麻栽培事犯の検挙数も51→70、その中での暴力団構成員等は4→17と増加し、組織的で大規模な大麻栽培が行われていることがうかがえる。

人口10万人あたりの大麻事犯検挙人員の推移。最も多いのが20歳代、次いで20歳未満となっているが、特に20歳代で大きく増加していることがわかる。警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課「令和元年上半期における組織犯罪の情勢(暫定値)」より

 日本で大麻の検挙数が増えている背景には、インターネットなどで闇販売が横行し、未成年者でも容易に買うことができること、欧米で合法化する動きがあり、国内でも大麻解禁を唱える有名人や芸能人が増え、犯罪意識が薄れていること、強い依存性や身体的・精神的悪影響の知識が正しく得られていないことなどがある。

大麻は健康を害する

 大麻については、含まれる化学物質カンナビノイド(Cannabinoid)とその一種であるTHC(Tetrahydrocannabinol、テトラヒドロカンナビノール、向精神作用あり、人工合成も)やカンナビジオール(Cannabidiol、CBD)の薬理作用を利用した医療用大麻と娯楽用大麻の認識の混同がある。欧米では医療用大麻が認められているが、日本では大麻取締法があり、医療目的でも所持や使用は禁止されている(※2)。

 米国政府は医療用を含む大麻を一部を除いて認めていないが、ワシントン州、コロラド州、カリフォルニア州などの州で娯楽品としての大麻が限定的ながら合法になっている。オランダは、厳格なガイドラインのもとで大麻などのソフトドラックを「まだまし」なハームリダクションとして規制対象外にし、カナダでも娯楽品としての大麻が合法になった。

 このように欧米の一部では、大麻の合法化が行われるようになっている。だが、英国、ドイツ、フランスなどでは依然として大麻は違法薬物で日本を含むほとんどの国で厳しく規制されている。

 マスメディアは合法化の動きばかり報じるが、国際的には非合法の国のほうが圧倒的に多い(※3)。なぜなら、大麻を使用することで短期的には記憶障害や運動機能障害が生じ、長期的には依存性の中毒症状、脳の機能低下、認知障害、呼吸器障害、生殖機能障害などの悪影響が出る。さらに、大麻使用によって、事故を起こしたり自殺する危険性が高まることも知られている(※4)。

 違法薬物として規制されている場合、購買費用がかさんで経済的にも破綻しやすくなり、反社会的勢力への資金源にもなる。※4の脚注をみればわかるが、大麻を使用することの弊害は枚挙に暇がないほど研究がある。だが、日本では大麻の健康や社会への悪影響があまり知られていない。

広まってしまえば規制は難しい

 では、なぜ欧米の一部で大麻が合法化されたのだろうか。それは大麻が規制できないほど広く蔓延してしまったからだ(※5)。どこの国も最初は大麻を規制していたが、より危険性の強いコカイン、ヘロイン、覚せい剤、LSDなどが広がった結果、ハームリダクションとして大麻への規制を緩め、その経済的な結果として流通ルートが整備され、すでに規制できないほど広まってしまった。

 オランダは大麻の規制が緩いといわれているが、他のEU諸国は大麻を厳しく取り締まっている。こうした薬物は国際的な連携で規制しないと国境を越えて密輸され、闇の流通ルートが作られて広がってしまう。

 大麻もそうだが強い依存性のある薬物ばかりなので一度、広まってしまえば、コストや社会的影響を考えると規制するよりも管理しながら課税するなどして限定的に使用を認めざるを得なくなる。オランダの場合も国際的な密輸ルートから国内へ大麻が入り込み、いつの間にか手の付けられないほど広がっていった。

薬物使用による健康被害評価(DALYs、Disability-Adjusted Life Years、障害調整生命年、障害と病気、早死にによって失われた年数)の世界地図。大麻合法化へ動いた国々で深刻な状態になっているが、日本はまだひどくないことがわかる。Via:GBD 2016 Alcohol and Drug Use Collaborators, “The global burden of disease attributable to alcohol and drug use in 195 countries and territories, 1990 – 2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.” THE LANCET Psychiatry, 2018

 こうした依存性の違法薬物に対しては厳罰ではなく、予防と治療によるほうが効果的とされており、水際で食い止められずに社会に広まってしまえば、規制や厳罰で臨むことは難しくなる。これはタバコのニコチン依存と同じだ。

 一方で、医療用大麻の研究開発の問題や合成薬物の開発と規制のイタチごっこという現状もあり、薬物関連の国際条約を統制する国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board、INCB)は2019年6月の声明で、薬物の個人使用に対して厳罰で臨むことを国際条約は義務づけていないとし、治療による社会への復帰などを考えるべきとしている。

 日本は幸いにしてまだ欧米ほど大麻が蔓延しているわけではない。医療用大麻の研究開発は重要だが、娯楽用の使用とは厳しく区別しなければならないだろう。

 大麻は安全でもないし、健康に影響がないわけでもない。タバコをみればわかるが、依存性の強い薬物は一度、手を出せばなかなかやめられなくなってしまうのだ。

●薬物依存などに関する相談先

厚生労働省「薬物乱用防止相談窓口」一覧

「全国精神保健福祉センター」一覧

特定非営利活動法人アスク「薬物問題の相談先」

NPO法人 全国薬物依存症者家族会連合会


※1:警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課「令和元年上半期における組織犯罪の情勢(暫定値)」2019
※2-1:Mary Barna Bridgeman, Daniel T. Abazia, “Medicinal Cannabis: History, Pharmacology, And Implications for the Acute Care Setting.” A Peer-Reviewed Journal for Managed Care and Hospital Formulary Management, Vol.42(3), 180-188, 2017
※2-2:医療用大麻は、抗けいれん剤、鎮痛剤などに使われる場合がある。
※2-3:カンナビジオール(Cannabidiol、CBD)には向精神作用がみられないため、日本でもこれを含んだ健康食品が売られている。
※2-4:米国FDA(食品医薬品局)は、大麻が特定の病気に対して安全で効果があると認めていない。また、大麻由来の医薬品(CBD)を一部で承認しているが許可を受けた医療従事者からの処方箋に限定。
※2-5:厚生労働省は2019年5月に同省が安全性と有効性を確認できる場合、国内の医療機関に対して限定的に大麻成分を含む治療薬の臨床試験を認める方針を出した。
※3:Anees Bahji, Callum Stephenson, “International Perspectives on the Implications of Cannabis Legalization: A Systematic Review & Thematic Analysis.” International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.16, doi:10.3390/ijerph16173095, 2019
※4-1:Nora D. Volkow, et al., “Adverse Health Effects of Marijuana Use.” The New England Journal of Medicine, Vol.370(23), 2219-2227, 2014
※4-2:H. Valerie Curran, et al., “Keep off the grass? Cannabis, cognition and addiction.” nature reviews neuroscience, Vol.17, 293-306, 2016
※4-3:Nora D. Volkow, et al., “Effects of Cannabis Use on Human Behavior, Including Cognition, Motivation, and Psychosis: A Review.” JAMA Psychiatry, Vol.73(3), 292-297, 2016
※4-4:Amir Englund, et al., “Can we make cannabis safer?” LANCET Psychiatry, Vol.4(8), 643-648, 2017
※4-5:Susan K. Murphy, et al., “Cannabinoid exposure and altered DNA methylation in rat and human sperm.” Journal Epigenetics, Vol.13, Issue12, 2018
※4-6:Chattering Dong, et al., “Cannabinoid exposure during pregnancy and its impact on immune function.” Cellular and Molecular Life Sciences, Vol.76, Issue4, 729-743, 2019
※4-7:Chelsea L. Shover, Keith Humphreys, “Six policy lessons relevant to cannabis legalization.” The American Journal of Drug and Alcohol Abuse, doi.org/10.1080/00952990.2019.1569669, 2019
※4-8:Magdalena Cerda, et al., “Association Between Recreational Marijuana Legalization in the United States and Changes in Marijuana Use and Cannabis Use Disorder From 2008 to 2016.” JAMA Psychiatry, 2019
※5:GBD 2016 Alcohol and Drug Use Collaborators, “The global burden of disease attributable to alcohol and drug use in 195 countries and territories, 1990 – 2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.” THE LANCET Psychiatry, Vol.5, Issue12, 987-1012, 2018