アイコスは「ヒツジの皮を被ったオオカミ」かも:IQOS is “wolf in sheep’s clothing”.
最近になって加熱式タバコの危険性に関する研究が増えてきた。その中からいくつかを紹介する。
広がる加熱式タバコの喫煙者
先日、厚生労働省が2018年の国民健康・栄養調査を発表した。その中で習慣的に喫煙している男性の約3割が加熱式タバコを吸っていると回答している(男性30.6%、女性23.6%)。
これは紙巻きタバコなどとのデュアルスモーク、二重・三重喫煙を含めての結果だが、20代・30代・40代という年代層で、男女ともに加熱式タバコの喫煙率が高かった。特に加熱式タバコのみの喫煙者が、20代男性38.5%、30代男性40.7%、40代男性30.4%、30代女性35.9%と30%以上になっていて、加熱式タバコが喫煙市場に大きな地位を占めつつあるのは確実だ。
一方、加熱式タバコの多くは、紙巻きタバコのように燃焼させないため、有害物質が低減されているとPRして販売されている。
だが、ニコチンを有害物質とみなすなら加熱式タバコは必ずしも有害物質が低減されているわけではないし、ニコチン以外の物質も総量としては紙巻きタバコと同じくらい出ていることがわかっている(※1)。例えば、グリセロールとプロピレングリコール、メンソールなどの物質は加熱式タバコに多く含まれる。
ニコチンも有害
タバコ会社はニコチンをほとんど無害としているが、最近になってニコチンにも有害性があることがわかってきた。がんのような悪性新患の場合、ニコチンはがん細胞を活性化させ、治療に悪影響を及ぼす。ニコチンは、細胞に有害な影響を及ぼし、健康な細胞を破壊することが知られている(※2)。
加熱式タバコにも、紙巻きタバコと同じくらい多くのニコチンが含まれている。ニコチンを摂取するのがタバコ製品なのだから当然だが、ニコチンによる健康への害もあることを知っておくべきだ。
最近、発表された研究論文(※3)によれば、アイコスのエアロゾルの細胞毒性を紙巻きタバコの指標となる3R4Fタバコと試験管内などの人工的な環境下(イン・ビトロ)で比較したところ、呼吸器系を含む多様な細胞でアイコスは紙巻きタバコと同様の毒性が観察されたという。
また同様な条件でアイコスと紙巻きタバコ、電子タバコを比較した研究論文(※4)によれば、同じようにヒトの肺細胞などの呼吸器へ悪影響を及ぼし、呼吸器系の感染症になるリスクを高める危険性があることがわかったという。
試験管内ではなくラットを使った研究論文(※5)では、アイコスのエアロゾルをラットに吸わせ、血管内皮細胞の機能を評価した。その結果、紙巻きタバコと同様にニコチンによると思われる作用でアイコスでも心血管の内皮機能への悪影響が見られたという。同様の結果を示した研究論文はほかにも多い。
有害性の低減がわかるまで規制せよ
喫煙は、がんを含む多種多様な病気のリスク因子だが、その発症メカニズムは複雑だ。喫煙量と喫煙時間にかなり依存していることが知られているが、ごくわずかなタバコ煙でも病気になるリスクはある。
ところが、喫煙者の全てが病気になるわけではない。タバコを吸ったことが原因で何らかの病気になるかどうか予測することは難しいが、統計的手法を使った疫学研究で多種多様な喫煙習慣を持つ喫煙者の有病率を評価することにより、喫煙によって引き起こされる健康への害を実証してきた。
一方、こうした疫学研究は長期的な評価が必要で、加熱式タバコが紙巻きタバコに比べて健康へのリスクを低減するかどうか実証するためには長い時間がかかる。加熱式タバコが最近になって市販され始めたことを考えれば、こうした疫学的な研究手法を行うことはできない。
紙巻きタバコに含まれる物質は6500以上、有害物質は5000を超え、その中には多くの発がん性物質が混ざっている。こうした物質の分析には長い時間がかかっていて、1990年代になってようやく概要がまとめられたが、その後も頻繁にアップデートされてきた(※6)。
タバコ会社が、タバコ製品に添加する物質を頻繁に変えてきたからだ。加熱式タバコにも同じように新たな物質が加えられ、複合的な影響が起きる危険性があることでその分析にはかなり長い時間がかかる。
加熱式タバコを含む新型タバコは「ヒツジの皮を被ったオオカミ」といわれている。有害物質の低減というPRのため、紙巻きタバコから切り替えるがニコチンによる依存性は残り、長期間、喫煙をやめられず、有害物質を摂取し続けることになるからだ(※7)。加熱式タバコによる疫学データの収集に長い時間がかかる以上、その害がわかるまでは従来の紙巻きタバコと同様の規制をとるべきだろう。
※1:Shigehisa Uchiyama, et al., “Simple Determination of Gaseous and Particulate Compounds Generated from Heated Tobacco Products.” Chemical Research in Toxicology, Vol.31, 585-593, 2018
※2-1:Sergei A. Grando, “Connections of nicotine to cancer.” nature reviews cancer, Vol.14, 419-429, 2014
※2-2:Alex I. Chernyavsky, et al., “Mechanisms of tumor-promoting activities of nicotine in lung cancer: synergistic effects of cell membrane and mitochondrial nicotinic acetylcholine receptors.” BMC Cancer, Vol.15, 2015
※2-3:Adrian Ataru, et al., “Nicotine Activity on Healthy Oral Cells and Pharyngeal Tumor Cells.” Revisit De Chime, Vol.70, No.10, 2019
※2-4:Jiawei Chen, et al., “Acetylcholine receptors: Key players in cancer development.” Surgical Oncology, Vol.31, 46-53, 2019
※3:Barbara Davis, et al., “Comparison of cytotoxicity of IQOS aerosols to smoke from Marlboro Red and 3R4F reference cigarettes.” Toxicology in Vitro, Vol.61, 2019
※4:Sukhwinder Singh Sohal, et al., “IQOS exposure impairs human airway cell homeostasis: direct comparison with traditional cigarette and e-cigarette.” ERJ open research, Vol.5, Issue1, 2019
※5:Pooneh Nabavizadeh, et al., “Vascular endothelial function is impaired by aerosol from a single IQOS HeatStick to the same extent as by cigarette smoke.” Tobacco Control, Vol.27, s13-s19, 2018
※6:Reinskje Talhout, et al., “Hazardous Compouds in Tobacco Smoke.” International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.8, 613-628, 2011
※7:Manfred Neuberger, “Effects of Involuntary Smoking and Vaping on the Cardiovascular System.” Preprints, doi: 10.20944/preprints201904.0037.v1, 2019