アイコスが「花粉症」の原因に?:Is IQOS the cause of the hay fever?

 加熱式タバコなどの新型タバコに健康への害がどれだけあるのか、よくわかっていない。例えば、こうした新型タバコを吸うことでアレルギー性鼻炎や喘息がどれだけ増えるのだろうか。最新の研究から読み解いてみたい。

花粉症はQOLを減退させる

 いよいよスギの花粉が飛び始めてきたが、花粉症の人にとっては憂鬱な季節だろう。マスクが品薄になり、不安を覚えている人も少なくなさそうだ。

 日本の花粉症では特にスギ花粉症が多いが、患者数の実態はあまりはっきりしていない。だが、2016年に行った東京都の調査によれば、推定有病率は48.8%に達し(※1)、都民の半数近くが花粉症にかかっていることになる。

 スギ花粉症は、発症する年齢が早まり、なかなか治りにくいため、近年、患者数が増加している(※2)。若い世代から働き世代に患者が多く、正常な生活(QOL)に悪影響を与えることも少なくない。

 タバコとアレルギーとの関連については研究が多く(※3)、タバコに含まれるタールやニコチンが免疫システムに重要な役割を果たすタンパク質の発現を抑制することが知られている(※4)。また、複数の論文を比較した研究から、タバコや受動喫煙がアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症に影響していることがわかっている(※5)。

 タバコの煙はアレルギー性喘息の原因でもある。オーストラリアのメルボルン大学の研究グループによる調査研究(※6)によれば、母親の喫煙で子どもが喘息になるリスクは1.26倍(オッズ比、信頼区間1.05-1.51)だった。アレルギーの原因になる免疫抗体(IgE、免疫グロブリンE)を使った米国の研究(※7)では、喫煙者のほうがIgE値が高かったという。

加熱式タバコとアレルギー性鼻炎の関係

 では、加熱式タバコ(Heated Tobacco Products、HTP)などの新型タバコは、アレルギー性鼻炎や喘息にどのような悪影響を引き起こすのだろうか。

 米国で死者まで出した電子タバコの健康被害の例をみるまでもなく、電子タバコがヒトの呼吸器の細胞に多様な炎症を引き起こすことはよく知られている。また、電子タバコほど一般的ではないが、加熱式タバコによる呼吸器への悪影響もいくつか報告されている。

 最近、韓国のソウル大学などの研究グループが発表した論文(※8)によれば、これまで加熱式タバコを吸ったことのある若い世代にアレルギー性鼻炎や喘息の発症が特徴的にみられたという。

 韓国で販売されている加熱式タバコは、IQOS(Philip Morris International)、glo(British American Tobacco)、lil(KT&G)で(※9)、プルーム・テック(JTI)は販売されていない。また、韓国における加熱式タバコのシェアは、IQOSが約70%を占めていると推定されている。

 研究グループは、韓国の13歳から18歳までの若い世代(平均15.2歳)を対象にした2018年のリスク調査(KYRBS-XIV、285万118人)を用い、その中から6万40人(女性2万9577人)の中高生を選び、過去のアレルギー性鼻炎や喘息の診療歴、現在のそれぞれの罹患状況、喫煙状況(喫煙歴なし、加熱式タバコ体験、過去喫煙、現在喫煙)や吸うタバコの種類(加熱式タバコ、電子タバコ、紙巻きタバコ)などをアンケート調査した。

 その結果、加熱式タバコの喫煙経験率2.9%、紙巻きタバコの現在喫煙率6.7%、電子タバコの現在喫煙率2.7%で、若い世代に加熱式タバコが広がりつつあることがわかった。そして、喫煙状況を18のパターンに分けたところ(※10)、加熱式タバコの喫煙経験者と紙巻きタバコの現在喫煙者に、アレルギー性鼻炎と喘息の発症との関連が特徴的にみられたという。

 紙巻きタバコの現在喫煙者は喫煙歴なしと比べ、アレルギー性鼻炎と喘息で高いリスクがあることがわかり、紙巻きタバコと加熱式タバコや電子タバコとの二重もしくは三重喫煙は特にリスクを高めていたという。

 アレルギー性鼻炎と加熱式タバコの関係に絞ってみると、加熱式タバコのみの喫煙経験がある人や紙巻きタバコ・電子タバコとの二重三重喫煙者は、喫煙歴のない人や紙巻きタバコのみや電子タバコのみの現在喫煙者にくらべ、既往歴と発症中で格段に割合が高い(※11)。つまり、加熱式タバコが加わると、アレルギー性鼻炎のリスクを高めるということになるかもしれない。

 タバコと花粉症の関係は複雑だ。むしろ喫煙者のほうが花粉症になりにくいという調査研究もある(※12)。

 だがこれらの調査研究は紙巻きタバコについてのもので、加熱式タバコとアレルギー性鼻炎や喘息との関係についての調査研究はこれが初めてだろう。もしかすると加熱式タバコには、アレルギー反応やアレルギー性疾患を引き起こす何らかの作用があるのかもしれない。


※1:東京都福祉保健局「花粉症患者実態調査報告書を取りまとめました」2017年12月18日

※2:Minoru Okuda, “Epidemiology of Japanese cedar pollinosis throughout Japan.” Annals of Allergy, Asthma & Immunology, Vol.91, Issue3, 288-296, 2003

※3:K M. Venables, et al., “Smoking, atopy, and laboratory animal allergy.” BMJ, Vol.45, Issue10, 1988

※4-1:Yanli Ouyang, et al., “Suppression of human IL-1β, IL-2, IFN-γ, and TNF-α production by cigarette smoke extracts.” The Journal of Allergy and Clinical Immunology, Vol.106, Issue2, 280-287, 2000

※4-2:C Macaubas, et al., “Association between antenatal cytokine production and the development of atopy and asthma at age 6 years.” The LANCET, Vol.362, Issue9397, 1192-1197, 2003

※4-3:H Mehta, et al., “Cigarette smoking and innate immunity.” Inflammation Research, Vol.57, Issue11, 497-503, 2008

※5-1:Jurgita Saulyte, et al., “Active or Passive Exposure to Tobacco Smoking and Allergic Rhinitis, Allergic Dermatitis, and Food Allergy in Adults and Children: A Systematic Review and Meta-Analysis.” PLOS MEDICINE, doi.org/10.1371/journal.pmed.1001611, 2014

※5-2:Robert Kantor, et al., “Association of atopic dermatitis with smoking: A systematic review and meta-analysis.” Journal of the American Academy of Dermatology, Vol.75, Issue6, 1119-1125, 2016

※6:Mark A. Jenkins, et al., “The associations between childhood asthma and atopy, and parental asthma, hay fever and smoking.” Paediatric and Perinatal Epidemiology, Vol.7, Issue1, 67-76, 1993

※7:Marie-Pierre Oryszczyn, et al., “Relationships of Active and Passive Smoking to Total IgE in Adults of the Epidemiological Study of the Genetics and Environment of Asthma, Bronchial Hyperresponsiveness, and Atopy (EGEA).” American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, Vol.161, No.4, 2000

※8:Soo Jie Chung, et al., “Novel tobacco products including electronic cigarette and heated tobacco products increase risk of allergic rhinitis and asthma in adolescents: Analysis of Korean youth survey.” Allergy, doi.org/10.1111/all.14212, 2020

※9:Heewon Kang, Sung-il Cho, “Heated tobacco product use among Korean adolescents.” Tobacco Control, Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2019-054949, 2019

※10:喫煙歴なし vs 加熱式タバコのみ喫煙歴あり、紙巻きタバコのみ過去喫煙者 vs 加熱式タバコ、紙巻きタバコの過去喫煙者、紙巻きタバコの現在喫煙者 vs 加熱式タバコ、紙巻きタバコの現在喫煙者、電子タバコのみ vs 加熱式タバコ、電子タバコの過去喫煙者、電子タバコ、紙巻きタバコの過去喫煙者 vs 加熱式タバコ、電子タバコ・紙巻きタバコの過去喫煙者、電子タバコの過去喫煙者、紙巻きタバコの現在喫煙者 vs 加熱式タバコ、電子タバコの過去喫煙者、紙巻きタバコの現在喫煙者、電子タバコの現在喫煙者 vs 加熱式タバコ、電子タバコの現在喫煙者、電子タバコの現在喫煙者、紙巻きタバコの過去喫煙者 vs 加熱式タバコ、電子タバコの現在喫煙者、紙巻きタバコの過去喫煙者、電子タバコの現在喫煙者、紙巻きタバコの現在喫煙者 vs 加熱式タバコ、電子タバコ・紙巻きタバコの現在喫煙者

※11:アレルギー性鼻炎のリスクでは、3種類とも喫煙歴なしに比べ、加熱式タバコなし、電子タバコなし、紙巻きタバコ現在喫煙者=1.3倍(OR:95%CI1.1-1.6)、加熱式タバコなし、電子タバコ現在喫煙者、紙巻きタバコ現在喫煙者=1.6倍(OR:95%CI1.2-2.1)、加熱式タバコあり、電子タバコ現在喫煙者、紙巻きタバコ現在喫煙者=1.6倍(OR:95%CI1.1-2.2)

※12-1:A. Hjern, et al.,”Does tobacco smoke prevent atopic disorders? A study of two generations of Swedish residents.” Clinical & Experimental Allergy, Vol.31, Issue6, 908-914, 2001

※12-2:C Nagata, et al., “Smoking and Risk of Cedar Pollinosis in Japanese Men and Women.” International Archives of Allergy and Immunology, Vol.147, No.2, 2008

※12-3:橋本佳明ら「アレルギー性鼻炎と喫煙との関係」、人間ドック、第25巻、652-655、2010