今ほど「禁煙」する「絶好のチャンス」はない(全国・禁煙外来リストあり):Now! It’s opportunity that you can quit smoking.
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)が広がり、改正健康増進法の全面施行が迫り、喫煙者には耐えがたい状況が続く。この際、ひと思いにタバコをやめてみたらどうだろうか。
タバコは感染リスクを上げる
人間の臓器の中で皮膚以外に外気に直接、触れるのは口と鼻、喉、気道、そして肺だ。特に気道は、外気から入り込む病原菌に対する強いバリア機能を持っている(※1)。
タバコの煙は、この気道のバリア機能に悪影響を及ぼす(※2)。これはタバコの煙に含まれている有害物質が、気道の粘膜細胞に関係する遺伝子の作用を減退させるためと考えられている。
同様の研究は山のようにあるが、ようするにタバコを吸うと病原菌に対するバリア機能にダメージが及ぼされ、呼吸器系の感染症にかかりやすくなり、呼吸器系の合併症のリスクを上げ、症状が重く治りにくくなるというわけだ(※3)。
このことはおそらく新型コロナ感染症についても言えるだろう。実際、喫煙は感染症のリスクを高め、受動喫煙により子どもが深刻な感染症に苦しんでいる(※4)。タバコ煙にさらされたマウスはインフルエンザにかかりやすく重篤化し(※5)、MERS(中東呼吸器症候群、MERS-CoV)でも喫煙者が重症化したという報告がある(※6)。
一方、受動喫煙防止を目的にした改正健康増進法が4月1日から全面施行される。飲食店の多くは禁煙になり、喫煙所もタバコ煙の害が及ばないよう施設管理者に求められるようになる。
喫煙者には厳しい状況になっているが、逆に考えれば禁煙するにはもってこいのチャンスともいえる。禁煙は難しいと思われがちだが、一気にやることで必ず成功できる。
タバコを吸い始めて1箱でニコチン依存になってしまう反面、ニコチンという薬物に対する渇望自体は3日ほどでほとんどなくなる。ニコチンによる身体的な影響は短い期間でなくなるが、喫煙行動への依存、つまり心理的な依存をどう克服するかが問題だ。
禁煙外来と心理的サポート
禁煙を決めてからは、自分に対してタバコを吸いたくなったら、代わりに何か別のことをすればいい(※7)。タバコへ向かった気を紛らわせるわけだ。
例えば、タバコを吸いたくなったら水を飲む、タバコを吸いたくなったらガムを噛む、タバコを吸いたくなったら窓を開けて外気を呼吸する、タバコを吸いたくなったらネコと遊ぶ、タバコを吸いたくなったら『サピエンス全史』を読む、タバコを吸いたくなったらSNSを眺める、タバコを吸いたくなったらスクワットをする……なんでもいい。
パートナーの協力を得るのもいい(※8)。健康に関する行動を変化には、社会的な関係が強く影響するからだ。
本心から禁煙を決意した後、再びタバコを吸ってしまうのではないかという不安感を乗り越え、禁煙の継続に自信を持つようになっても喫煙者の気持ちは揺れ動く。そこで重要になるのは、医療関係者と特に家族からの精神的なサポートで、依存症からの回復にはこうした周囲の支えがあることが大切だ(※9)。
ニコチンという薬物依存には、禁煙外来などの医療機関で処方されるニコチン代替薬、ニコチンガムやニコチンパッチによる禁煙補助薬といったニコチン代替療法が有効となる(※10)。
心理的な依存を断ち斬るためには、継続的な心理サポートやカウンセリングも必要だ。禁煙治療でも医師によるアドバイスが効果的だとされ、ニコチン代替療法と心理的なアドバイスの併用が禁煙の継続率を高めることが知られている(※11)。
ライターや灰皿などのタバコにまつわる道具を周囲から取り除き、環境的にも喫煙をイメージするものを排除し、再喫煙のトリガーになることを防ぐことも必要となる(※12)。
この時、加熱式タバコに切り替えると、ニコチン依存が続いてしまい、再び紙巻きタバコに戻ってしまう危険性がある。低タール低ニコチンのタバコも逆効果だ。
タバコの害を自覚し、ニコチン依存には禁煙外来へ行くなどしてニコチン代替療法を受診し、心理的な依存には家族などからのサポートを得て生活習慣や環境を変えていくことができれば必ず成功する。
ニコチンという薬物の依存はすぐに消える。心理的な依存も克服可能だ。この際、加熱式タバコを含めたタバコをやめてみたらどうだろうか。
・全国禁煙外来・禁煙クリニック一覧(日本禁煙学会)
※1:Shyamala Ganesan, et al., “Barrier function of airway tract epithelium.” Tissue Barriers, Vol.1, No.4, 2013
※2:Renat Shaykhiev, et al., “Cigarette smoking reprograms apical junctional complex molecular architecture in the human airway epithelium in vivo.” Cellular and Molecular Life Sciences, Vol.68, 877-892, 2011
※3:Salvador Bello, et al., “Tobacco Smoking Increases the Risk for Death From Pneumococcal Pneumonia.” CHEST, Vol.146(4), 1029-1037, 2014
※4:Reetta Huttunen, et al., “Smoking and the outcome of infection.” Journal of Internal Medicine, Vol.269, Issue3, 258-269, 2011
※5:Rosa C. Gualano, et al., “Cigarette smoke worsens lung inflammation and impairs resolution of influenza infection in mice.” Respiratory Research, Vol.9, 2008
※6:Basem M. Alraddadi, et al., “Risk Factors for Primary Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus Illness in Humans, Saudi Arabia, 2014.” Emerging Infectious Diseases, Vol.22(1), 49-55, 2016
※7:Christopher J. Armitage, “Evidence That Implementation Intentions Can Overcome the Effects of Smoking Habits.” Health Psychology, Vol.35, No.9, 935-943, 2016
※8:Rachel Margolis, Laura Wright, “Better Off Alone Than With a Smoker: The Influence of Partner’s Smoking Behavior in Later Life.” Journal of Gerontology: Social Sciences, Vol.71, No.4, 687-697, 2015
※9:Shu-Hong Zhu, et al., “Smoking cessation with and without assistance.” American Journal of Preventive Medicine, Vol.18, Issue4, 305-311, 2000
※10:C Silagy, et al., “Nicotine replacement therapy for smoking cessation (Cochrane Review).” The Cochrane Library, Issue4, 2003
※11:T Lancaster, et al., “Physician advice for smoking cessation.” The Cochrane Database of Systematic Reviews, 2004
※12:Matthew M. Engelhard, et al., “Identifying Smoking Environments From Images of Daily Life With Deep Learning.” JAMA Network Open, Vol.2(8), 2019