新型コロナ感染症:難しい「肺炎」診断を専門家に聞く:COVID-19:Ask an expert about the difficult “pneumonia” diagnosis.

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)の流行が止まらない。この感染症は多くの場合、肺炎などの呼吸器疾患の症状が臨床の現場で現れる。実は、肺炎の原因診断はとても難しく、新型コロナ感染症の判別を難しくしている理由にもなっている。この肺炎について専門家に聞いた(この記事は2020/04/17の情報に基づいて書いています)。

高齢者で多い肺炎による死亡

 当初、新型コロナ感染症は「新型コロナウイルス肺炎」と呼ばれていた。だが、症状が肺炎だけではなく、心血管疾患や髄膜炎を含む中枢や末梢の神経関係疾患など多様な症状が出る(※1)ことから、病名の最後に肺炎の代わりに感染症が付くことになる。

 ただ、そうはいっても新型コロナ感染症で重篤化するケースのほとんどは、肺炎、特に間質性肺炎から急性呼吸窮迫症候群(ARDS、Acute Respiratory Distress Syndrome)になり呼吸不全を引き起こす(※2)。つまり、新型コロナ感染症と、肺炎を引き起こす他の疾患を区別するため、間質性肺炎に関する臨床的な判別が重要になることは間違いない。

 だが、そもそも肺炎による死亡は高齢者の死亡原因の第3位といわれているほど多いが、その中から新型コロナ感染症による肺炎をしっかり区別できるのだろうか。

 そこで臨床現場での診療や治療にも携わったことのある感染症研究の専門家の医師、松田和洋氏に肺炎の判別について話を聞いた。松田氏は間質性肺炎などを引き起こすマイコプラズマ感染症を長く研究し、新型コロナ感染症対策のためにも、肺炎症状を細菌やウイルスを含めた原因によって判別することが重要と訴えている。

──肺炎を引き起こす原因には何があるのでしょうか。

松田「肺炎というのは、肺に炎症が起きる病気で、細菌やウイルスによる感染症になります。臨床学的に肺炎には大きく分け、院内肺炎と市中肺炎があります。院内肺炎というのは文字通り、入院中の患者さんがかかる肺炎です。一方、市中肺炎は、90日以内に入院したことがなかったり介護施設に入所していないなどの人で、それまで一般的な社会生活を送っていた人に発熱、長引く咳、倦怠感などの症状が起きた場合の肺炎です。また最近、高齢化を受けて退院・退所後の患者さんがかかる医療・介護関連肺炎という分類ができています。これは院内感染と市中感染の両方にまたがる肺炎です」

──新型コロナ感染症の肺炎はどちらに分類されますか。

松田「新型コロナ感染症による肺炎の多くは市中肺炎に分類されます。また、医療従事者を守らないと医療崩壊することから、医療従事者の院内感染の防護が重要になってきています」

肺炎の分け方の図。発熱、長引く咳、倦怠感などを訴える患者さんで肺炎を疑う場合、大きく院内肺炎(医療・介護関連肺炎)と市中肺炎に分けられる。市中肺炎はさらに細菌性(定型)肺炎と非定型肺炎に分けられる。新型コロナ感染症は主に市中肺炎の中の非定型肺炎だ。松田氏の指示により図作成筆者

間質性肺炎は画像診断で

──肺炎の診断はどのように行うのでしょうか。

松田「発熱、長引く咳、倦怠感といった症状の患者さんが来院した場合、臨床の先生はまず一般的な風邪を疑います。そもそも風邪の診断が難しいのですが、風邪から肺炎を引き起こし、重篤化することはよくあるので、肺炎にかかっているかどうかは患者さんにとって重要です。そのため、聴診器による診断の後、血液検査や画像診断(末梢血白血球増加、CRP陽性、赤沈亢進、胸部X線、CTスキャンなど)をしてみることがあり、血液検査で身体のどこかに炎症が起きているか、画像診断で肺に炎症が起きているかどうかを診断します」

──新型コロナ感染症の肺炎の画像診断はどのようになされますか。

松田「風邪や気管支炎の場合、胸部X線写真やCT像の画像診断で肺に異常はみられませんが、肺炎は上気道(鼻から咽頭まで)、肺を含む下気道(気管、気管支)まで炎症が広がっています。X線写真やCT像で、肺にベッタリとした白い影があれば細菌性(定型)肺炎、肺に摺りガラス状の白い影(Ground-glass Opacity)があれば間質性肺炎としての非定型肺炎に分けます。新型コロナ感染症の肺炎は間質性肺炎で、間質性肺炎を引き起こす原因微生物には他にインフルエンザウイルス、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネエラ・ニューモフィラなどがあります」

2020年1月18日から2月2日までの間に新型コロナ感染症で入院した中国人患者さんの肺のCT像。Aは36歳の男性、Bは44歳の男性、Cは65歳の女性でいずれも肺の両側に磨りガラス状の白い影(矢印)がみえる。Via:Adam Bernheim, et al., “Chest CT Findings in Coronavirus Disease-19(COVID-19): Relationship to Duration of Infection.” Radiology, 2020

──新型コロナ感染症では、X線写真やCT像に磨りガラス状の白い影(※3)ができるのが特徴というわけですか。

松田「その通りです。新型コロナ感染症のCT像には、他にいわゆる砕かれたタイル(Crazy-Paving)やメロンの皮様が特徴的にみられることもあります。間質性肺炎は、肺胞という肺にある細胞の壁に炎症が起きたり、慢性的な炎症によって肺胞の組織が硬くなる線維化が起きる病気です。この非定型肺炎の典型的な画像所見がみられる間質性肺炎は、細菌による間質性肺炎とウイルスによる間質性肺炎、その他の原因に分けられます(※4)。その他の原因というのは、薬剤や粉じんなどによるもの、膠原病などの病気によるもの、また原因不明の間質性肺炎です。原因の中でウイルスによる間質性肺炎の割合はごくわずかですが、新型コロナウイルスが死亡にまで至る重篤な肺炎を引き起こすのが脅威になっているといえるでしょう」

肺炎を引き起こす原因菌の割合。原因不明の割合が最も多く、ウイルスによる肺炎はわずか1.7%でしかない。わかっているものでは肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、肺炎(ニューモニエ)マイコプラズマ、肺炎(ニューモニエ)クラミジアの順になっている。Via:石田直、呼吸器ケア、第1巻、第4号、2003より一部改変

重要な新型コロナ感染症の区別

──間質性肺炎の診断から原因になっている細菌やウイルスを区別できるのでしょうか。

松田「新型コロナ感染症の診断について、現状では確度の低いPCR検査に頼っています。こうした検査の前の臨床診断の現場では、先生方にもいろんな意見があり混乱状態になっているようです。私はその大きな原因が、新型コロナウイルスと肺炎マイコプラズマの区別ができていないことにあると考えています。マイコプラズマは、他の細菌とは違って細胞壁を持たず、ウイルスとは違って自己増殖するという最小の細菌、つまりウイルスとは区別のつかない臨床症状を引き起こす微生物です。細菌ともウイルスともいえない特徴から、長くマイコプラズマによる肺炎が見過ごされてきました。しかし、最近になって、マイコプラズマが免疫の仕組みから逃れ、毒性は弱いけれど慢性的に炎症や組織破壊を繰り返していくことがわかり、原因不明の肺炎にマイコプラズマによるものが多く含まれているのではないかと考えられ始めています。つまり、市中肺炎における肺炎診断の中で、肺炎マイコプラズマの割合が増えるのなら、肺炎症状からまずはしっかりと肺炎マイコプラズマを区別することが必要なのです」

新型コロナ感染症と他の原因をしっかりと区別しなければならないが、臨床の現場では間質性肺炎の原因を区別できていないのではないか。ちなみに肺炎マイコプラズマによる肺炎は、診断薬の問題から成人については確定診断されにくい。基幹定点医療機関(全国約500カ所の病床数300以上の医療機関)の届出が必要な5類感染症になっているが、この届出が必要な基幹定点医療機関は対象として小児科に偏ったものになっているのではないかと松田氏は推測している。松田氏の指示により図作成筆者

──新型コロナ感染症と肺炎マイコプラズマの区別が重要ということでしょうか。

松田「肺炎マイコプラズマに限らず、新型コロナ感染症による肺炎と他の肺炎を明確に区別することが重要です。新型コロナ感染症にかかったか湖北省への旅行歴のある中国の肺炎患者さんを調べた研究(※5)によれば、新型コロナ感染症の患者さんとその他の病気の患者さんの両方に共通した症状や磨りガラス状のCT像がみられ、19例の新型コロナ感染症の患者さんに1症例、その他15例のコロナウイルス感染症の患者さんに2症例、マイコプラズマ検査で陽性の患者さんがいました。また、新型コロナ感染症と肺炎マイコプラズマの同時感染の例も報告されていて、当初いわれていたのとは異なり、小児や若年者への感染でも重篤化することがわかってきています。肺炎マイコプラズマの判別には、診断薬の問題があります。そのため、新型コロナウイルスと同じか、それ以上に医療の感染防御の体制を簡単に乗り越え、院内感染を引き起こしたり、医療従事者に感染するようなことが起きているのです」

 肺炎といっても様々なものがある。新型コロナ感染症による肺炎は、まだ全体の肺炎の中ではごくわずかだが、今後どうなるかわからない。まずは新型コロナ感染症による肺炎と他の肺炎を区別することが重要だが、現状では肺炎マイコプラズマの診断薬も確立されていない状況であり、新型コロナ感染症の感染拡大を防ぐための方法としても、肺炎の区別は早急に確立しなければならない技術といえるだろう。

松田 和洋(まつだ かずひろ)
山口大学医学部卒業、医学博士。東京医科歯科大学医学部微生物学教室助手、国立がんセンター研究所主任研究官などを経て、2005年にエムバイオテック株式会社を設立。代表取締役。マイコプラズマ感染症研究センター長。専門は、マイコプラズマ感染症、微生物学、臨床免疫学、生化学、臨床血液学、内科学。

※1-1:F Zhou, et al., “Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study.” THE LANCET, Vol.395, 1054-1062, March, 28, 2020

※1-2:Ling Mao, et al., “Neurologic Manifestations of Hospitalized Patients With Coronavirus Disease 2019 in Wuhan, China.” JAMA Neurology, doi:10.1001/jamaneurol.2020.1127, April, 10, 2020

※2-1:Chaolin Huang, et al., “Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China.” THE LANCET, doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30183-5, February, 15-21, 2020

※2-2:Xiaobo Yang, et al., “Clinical course and outcomes of critically ill patients with SARS-CoV-2 pneumonia in Wuhan, China: a single-centered, retrospective, observational study.” THE LANCET Respiratory Medicine, doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30079-5, February, 24, 2020

※3:Adam Bernheim, et al., “Chest CT Findings in Coronavirus Disease-19(COVID-19): Relationship to Duration of Infection.” Radiology, doi.org/10.1148/radiol.2020200463, February, 20, 2020

※4:定型肺炎と非定型肺炎と呼ばれる二つの肺炎のグループの具体的な特徴の違い:定型肺炎は、細胞壁を備えた一般的な細菌の感染が原因となる典型的な肺炎症状を引き起こす。代表的な原因病原菌の種類は、肺炎球菌、肺炎桿菌、インフルエンザ桿菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、モラクセラといった細菌。非定型肺炎は、細胞壁のないなど、一般的な細菌とは構造の異なる特殊な細菌、ウイルス、真菌などが原因となる肺炎。代表的な原因病原菌の種類は、マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)、レジオネラ菌といった特殊な細菌のほか、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、水痘ウイルス、ニューモシスチス、クリプトコッカス、アスペルギルス、SARSウイルス、MERSウイルス、そして新型コロナウイルスなど。

※5:Dahai Zhao, et al., “A comparative study on the clinical features of COVID-19 pneumonia to other pneumonias.” Clinical Infectious Disease, doi.org/10.1093/cid/ciaa247, March, 12, 2020