新型コロナ「タバコ・パラドックスの崩壊」とコロナ禍で「暗躍するタバコ会社」に課税負担を:The Collapse of the COVID-19 Tobacco Paradox and the Burden of Taxation on ” The secret manoeuvering Tobacco Companies”

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)にはいくつかパラドックスがある。例えば、インフルエンザとは違って子どもが重篤化しにくかったり、他のコロナウイルスは気温や湿度が高くなると感染が弱まるが新型コロナではそうでないなどだ。こうしたパラドックスの一つだった新型コロナと喫煙の関係は解決しつつあるが、こんなコロナ禍の中でもタバコ会社は顧客確保に余念がない(この記事は2021/02/28の情報にもとづいて書いています)。

新型コロナと喫煙のパラドックスとは

 喫煙と新型コロナの関係でいえば、喫煙者は症状が重くなったり(中等症、Severe)重症化する(Critical)リスクが高くなる(※1)。これに関してパラドックスはない。

 では、喫煙者は感染しやすかったり入院するリスクは高いのだろうか。

 過去の研究や直感的な推測で喫煙者は新型コロナにかかりやすいことになる。だが、喫煙者は新型コロナにかかりにくく、かかっても軽症ですんでいるのではないかという研究があり(※2)、これが新型コロナと喫煙のパラドックスになる。

 このパラドックスをどう理解すればいいのだろうか。ある研究グループは、タバコに含まれるニコチンが新型コロナの感染に予防的な役割をするのではないかという(※3)。このことは日本ではあまり話題になっていないが、欧米などではSNSで拡散し、新型コロナ感染予防にタバコを吸ったりニコチンガムなどの禁煙補助薬を使うべきといった情報が流布してきた。

 だが、新型コロナと喫煙の関係を調べた研究では、患者の喫煙の状況や過去喫煙と現在喫煙などの分類が正確に把握できていなかったり(※4)、喫煙率の低い富裕層が多いといった社会経済的な患者の選択に偏りがあったり(※5)といった問題点が指摘されている(※6)。

 つまり、新型コロナの臨床の現場は混乱していると考えられ、そうした状況で患者の喫煙歴を正確に記述できるかどうかわからないし、喫煙者の多くが新型コロナの感染を恐れ、入院前にタバコをやめている可能性もある。これまでに喫煙と新型コロナについて一貫した研究が少ないのも事実だが、これらは研究の参加者や患者の選択に影響を与え、バイアスになる危険性が高い(※7)。

 実際、臨床現場が落ち着きを取り戻すにつれ、新型コロナと喫煙の関係について感染や入院リスクでも高くなるという結果が出てきている。

 英国で5万人以上を対象に行われた調査では、これまで一度もタバコを吸ったことのない人と現在喫煙者を比べると、現在喫煙者のほうが新型コロナと疑われる症状を引き起こすリスクが79%高かった(※8)。また、この調査で参加者を社会経済的に調整したところ、新型コロナに感染した患者では若年の社会経済的な弱者でリスクが高かったという。

 さらに新型コロナのスマホ用分析アプリ(Zoe COVID Symptom Study)のデータを使った英国の研究(参加者83万人以上)によると、現在喫煙者は、発熱、咳、息切れ、嗅覚異常、食欲減退、下痢、倦怠感、筋肉痛といった新型コロナに特有の症状を起こす割合がタバコを吸ったことのない人に比べて29%高く、検査で新型コロナウイルス陽性反応の出た現在喫煙者のほうがタバコを吸ったことのない人より2倍以上、病院にかかる割合が多かったという(※9)。

崩れたパラドックスとタバコ会社の暗躍

 こうした疫学調査と同時に新型コロナのウイルスが、喫煙者に侵入しやすい、つまり感染しやすいのではないかという研究も多く出てきている。これは新型コロナウイルスが細胞へ侵入する足掛かりになるACE2という酵素受容体が、タバコによって発生するPM2.5などの微小粒子状物質によって多く発現するからだ。

 喫煙者は感染や入院しにくいという新型コロナと喫煙のパラドックスは、こうして崩壊しつつある。その一方で、タバコ会社は喫煙者という顧客の維持や新たな創出に余念がない。

 タバコ会社は、国際的なタバコ規制条約(FCTC)によって広告宣伝を厳しく制限されている。日本でもJT(日本たばこ産業)が喫煙シーンのないイメージCMを流しているが、それはタバコ製品をテレビで見せないという業界の自主規制があるからだ。

 そのためタバコ会社は、コロナ禍の中で自社イメージをあげようと躍起になっている。例えばブリティッシュ・アメリカン・タバコはタバコ葉を使ったワクチン開発を進めるとアナウンスし、フィリップ・モリス社はブルガリアやルーマニアで新型コロナ支援と称して数千万円規模の寄付をするなど、JTを含めたタバコ会社が世界各国各地で盛んに新型コロナに乗じたキャンペーンを展開している(※10)。

 日本でもJTの各支社が自治体へ寄付金を贈ったり喫煙所を設置したりしているが、こうした行為はマスメディアに取り上げられ、支援金などが広告宣伝費代わりになっている。

 日本は前述したFCTCに加盟しているが、自治体がタバコ会社から寄付を受けるのはこの国際法違反の疑いもある。実際、日本はタバコ産業からの影響が最も深刻な国だ(※11)。

 喫煙者は喫煙所へ出入りする際、ドアノブを触り、素手でタバコを扱い、タバコ煙やエアロゾルを吐き出す。タバコは素手で持って口へくわえ、そのたびにマスクを外し、喫煙行為によって気が緩むのか喫煙者同士で会話をする。そのため、喫煙所が感染クラスターになるケースも増えている。

 すでに「オワコン」でもあるタバコ会社は延命に必死だが、30年1箱(20本、30パック年)以上のタバコを吸ってきた喫煙者もまた入院や死亡リスクが極端に高くなることがわかっている。米国クリーブランドにあるケース・ウェスタン・リザーブ大学などの研究グループがオハイオ州とフロリダ州の病院データを調べたところ、30パック年以上の喫煙者はタバコを吸ったことのない人と比べて入院するリスクが2.25倍高く、死亡率は1.89倍高かったという(※12)。

 つまり、タバコ会社はタバコを売ることで新型コロナの感染拡大に手を貸し、医療資源という社会資本に大きな負荷をかけている存在ということになる。タバコは低コストで高い利益をあげられるビジネスだ。欺瞞に満ちたCSRまがいの寄付などではなく、コロナ禍で儲けているタバコ会社には高い課税負担をかけるべきだろう。

※1-1:Rohin K. Reddy, et al., “The effect of smoking on COVID-19 severity: A systematic review and meta-analysis” JOURNAL OF MEDICAL VIROLOGY, doi.org/10.1002/jmv.26389, 4, August, 2020

※1-2:Askin Gulsen, et al., “The Effect of Smoking on COVID-19 Symptom Severity: Systematic Review and Meta-Analysis” Pulmonary Medicine, doi.org/10.1155/2020/7590207, 9, September, 2020

※1-3:Claudia Pavao Matos, et al., “Tobacco and COVID-19: A position from Sociedade Portuguesa de Pneumologia” Pulmonology, doi: 10.1016/j.pulmoe.2020.11.002, 17, November, 2020

※1-4:Mattia Bellan, et al., “Fatality rate and predictors of mortality in an Italian cohort of hospitalized COVID-19 patients” scientific reports, doi.org/10.1038/s41598-020-77698-4, 26, November, 2020

※1-5:Arunima Purkayastha, et al., “Direct Exposure to SARS-CoV-2 and Cigarette Smoke Increases Infection Severity and Alters the Stem Cell-Derived Airway Repair Response” Cell Stem Cell, doi.org/10.1016/j.stem.2020.11.010, 17, November, 2020

※1-6:Adinat Umnuaypornlert, et al., “Smoking and risk of negative outcomes among COVID-19 patients: A systematic review and meta-analysis” Tobacco Induced Diseases, Vol.19, Issue9, doi: 10.18332/tid/132411, 4, February, 2021

※1-7:Huimei Zhang, et al., “Association of smoking history with severe and critical outcome in COVID-19 patients: A systematic review and meta-analysis” European Journal of Integrative Medicine, doi: 10.1016/j.eujim.2021.101313, 18, February, 2021

※2-1:Konstantinos Farsalinos, et al., “Systematic review of the prevalence of current smoking among hospitalized COVID-19 patients in China: could nicotine be a therapeutic option?” Internal and Emergency Medicine, doi:10.1007/s11739-020-02355-7, 9, May, 2020

※2-2:Goran Hedenstierna, et al., “Nitric oxide dosed in short bursts at high concentrations may protect against COVID 19” Nitric Oxide, doi.org/10.1016/j.niox.2020.06.005, 18. June, 2020

※3:Jean-Pierre Changeux, et al., “A nicotinic hypothesis for COVID-19 with preventive and therapeutic implications” Comptes Rendus. Biologies, Vol.343, No.1, 33-39, 5, June, 2020

※4-1:Simon de Lusignan, et al., “Risk factors for SARS-CoV-2 among patients in the Oxford Royal College of General Practitioners Research and Surveillance Centre primary care network: a cross-sectional study” LANCET Infectious Diseases, Vol.20(9), 1034-1042, 15, May, 2020

※4-2:Emily J. Grundy, et al., “Smoking, SARS-CoV-2 and COVID-19: A reviews considering implications for public health policy and practice” Tobacco Induced Diseases, doi: 10.18332/tid/124788, 29, July, 2020

※4-3:David Simons, et al., “The association of smoking status with SARS-CoV-2 infection, hospitalization and mortality from COVID-19: a living rapid evidence review with Bayesian meta-analyses (version 7)” ADDICTION, doi.org/10.1111/add.15276, 2, October, 2020

※5:Francois Alla, et al., “Tobacco and COVID-19: a crisis within a crisis?” Canadian Journal of Public Health, doi.org/10.17269/s41997-020-00427-x, 14, October, 2020

※6:Naomi A. van Westen-Lagerweij, et al., “Are smokers protected against SARS-CoV-2 infection (COVID-19)? The origins of the myth” Primary Care Respiratory Medicine, Vol.31, Issue10, 26, February, 2021

※7:Gareth J. Griffith, et al., “Collider bias undermines our understanding of COVID-19 disease risk and severity” nature COMMUNICATIONS, doi.org/10.1038/s41467-020-19478-2, 12, November, 2020

※8-1:Sarah E. Jackson, et al., “COVID-19, smoking and inequalities: a study of 53002 adults in the UK” Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2020-055933, 21, August, 2020

※8-2:Harry Tattan-Birch, et al., “COVID-19 smoking, vaping and quitting: A representative population survey in England” ADDICTION, doi.org/10.1111/add.15251, 11, September, 2020

※9:Nicholas S. Hopkinson, et al., “Current smoking and COVID-19 risk: results from a population symptom app in over 2.4 million people” BMJ, Thorax, doi.org/10.1136/thoraxjnl-2020-216422, 2, January, 2021

※10:Charis Girvalaki, et al., “Social responsibility during the COVID-19 pandemic: Tobacco industry’s trojan horse in Europe” Tobacco Prevention & Cessation, Vol.6, Issue37, doi: 10.18332/tpc/123244, 15, June, 2020

※11:Mary Assunta, “Global Tobacco Industry interference index 2020” A Global Tobacco Industry Watching, 2020

※12:Katherine E. Lowe, et al., “Association of smoking and Cumulative Pack-Year Exposure with COVID-19 Outcomes in the Cleveland Clinic COVID-19 Registry” JAMA Internal Medicine, doi:10.1001/jamainternmed.2020.8360, 25, January, 2021