喫煙所は必要か:「喫煙者」への「大規模アンケート」から見えてくる「タバコ問題」の本質とは
新型コロナの影響で駅前などの公衆喫煙所も閉鎖され、いわゆる「喫煙所難民」という人が各地の公園などでタバコを吸い、新たな社会問題になっている。喫煙者に対するアンケート調査から、タバコと喫煙所、喫煙者の心理を探ってみた。
コロナ禍のタバコ問題
2020年4月1日に改正健康増進法が全面施行され、原則として複数の人が集まる屋内が禁煙となった。また、新型コロナの感染防止対策として感染の場になる危険性のある喫煙室や喫煙所が閉鎖されている。
改正健康増進法の目的は受動喫煙の防止だ。タバコの副流煙(吸い込んでいない時のタバコから立ち昇る煙や喫煙者が吐き出す煙)は、濃度など同条件の場合、主流煙よりも毒性が強い(※1)。日本では毎年、1年間に受動喫煙関連で約1万5000人が死んでいるとされ(※2)、新型コロナを重症化させる心血管疾患、呼吸器系の疾患、糖尿病などは、受動喫煙でも発症することが知られている(※3)。
一方、2020年4月に福井県で会社の喫煙室で感染したとみられる事例が発生し、その後、栃木県、北海道、宮崎県、静岡県、福岡県、埼玉県などで喫煙室や喫煙所が感染源とする報告が出ている。また、2020年10月、政府は喫煙所が感染リスクの高い場所と指摘し、いわゆる3密を避けるために各地の公衆喫煙所が閉鎖されるようになった。
もともと各地域・自治体の条例などで路上喫煙禁止のエリアがあり、違反した喫煙者には過料が科せられるなど、改正健康増進法の施行や新型コロナのパンデミックの以前からタバコを吸う場所は少なくなっていた。
改正健康増進法の適用外である国会や自治体の議会の喫煙所問題や議員会館の事務室というタバコを吸ってはいけない場所で喫煙する議員などが現れた。こうした中、喫煙する場所を確保する目的やタバコの吸い殻のポイ捨て、受動喫煙の防止などのため、補助金や地方たばこ税、タバコ会社からの寄贈によって公衆喫煙所を設置すべきという声が高まっている。
喫煙者も喫煙所へは行きたくない
では、駅前などに公衆喫煙所を設置すれば、はたして喫煙者は路上喫煙をやめ、ポイ捨てがなくなり、受動喫煙の害を根絶することができるのだろうか。税金などを投じて公衆喫煙所を設置すれば、喫煙者も非喫煙者もハッピーになるのだろうか。
2021年に入ってからSNSの有志により、公衆喫煙所に対する喫煙者の意識を探るアンケート調査が行われた(※4)。この調査には筆者も参加しているが、あちこちで「喫煙所難民」が出現し、新たなタバコ問題が浮上する中、上記の疑問、つまり公衆喫煙所の設置は正しい解決方法なのか、知りたいと考えたからだ。
まず、全国に300万人以上が登録しているモニター情報サービス(Fastask)を用い、人口密度の高い都府県(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)在住で20歳以上の男性に喫煙の有無を質問し、スクリーニング調査とした(※5)。
スクリーニング調査の結果、2164人の喫煙者グループを得ることができた(※6)。そして、このグループに対し、3項目の質問をした。
その結果、Q1「喫煙したくても、喫煙所を利用したくないと思うことがありますか」について「全く思わない」が約1/3,残りの2/3の喫煙者は「喫煙所を利用したくない」と「いつも」「頻繁に」「ときどき」思うことがあることがわかった。
Q2「駅前など人通りの多いエリアで、喫煙所が設置されていても、喫煙所以外の路上等で喫煙したことが、過去5年間にありますか。最も近いものを以下から1つ選んでください」への回答は以下の通りだ。こうしたエリアへ行ったことのない「該当しない」を除いた割合をみると「喫煙所以外で喫煙したことはこの5年間に1回もない」と回答した喫煙者は1/4以下で残りの3/4の喫煙者は喫煙所以外でタバコを吸ったことがあると回答している。
Q3「公衆喫煙所がない区域において、路上喫煙に対して罰金(過料など)が常に徴収されるようになった場合、路上喫煙はどれくらい減ると思いますか。最も近いものを以下から1つ選んでください」という質問では「わからない」を除く「9割減る〜全くいなくなる」から「変わらない〜1割減る」まで5段階までの回答を求めた。その結果、半分以上が過料などの罰金が路上喫煙を減らすために効果的と答えた。
さらにQ3に関しては、結果の割合に重み付け(加重平均)をし、過料などの罰金の効果を算出した。これは「全くいなくなる」〜「変わらない」まで「わからない」(「わからない」12.2%)を除いた5段階、それぞれについて喫煙者が過料などの罰金に対する評価が異なるからだ。
過料などの罰金の効果の重み付けを算出したところ、約57.9%となった。この割合は、喫煙者が想定する路上喫煙の罰則効果と考えることができる。
一方、Q2「過去5年間1度も喫煙所以外で喫煙したことがない」喫煙者33.6%は罰則は無関係な喫煙者であり、これを罰則効果と比較することができる。57.9%と33.6%を比べてみると、喫煙者は過料などの罰金のほうが路上喫煙を減らすためには約24.3%、効果があると考えている可能性がある。
誰のためにもならない喫煙所設置
では、この喫煙者に対する公衆喫煙所でタバコを吸うことに関する意識調査から、どんなことがみえてくるのだろうか。
・喫煙者も喫煙所を利用したくないと考え、喫煙所に入らずに周辺や離れた場所でタバコを吸うことが多い可能性がある。
・過去5年間に喫煙所以外の路上などでタバコを吸ったことが1度もない喫煙者は、全体の1/3程度しかいない可能性がある。
・喫煙者も過料などの罰金のほうが路上喫煙を減らすために効果があると考える可能性がある。
このアンケート調査は、ネット上のサービスに回答する喫煙者という選択バイアスなどがあるかもしれないが、各年代を合わせて1000人以上から回答を得ているため、喫煙所に対する喫煙者の一般的な意識がある程度わかる。また、喫煙所設置の効果に関し、疑問を感じざるを得ない結果となった。
タバコは吸う人も周囲の人も健康へ害を及ぼすのは周知の事実だが、そもそも喫煙者の健康のためにもタバコが吸える場所を設置するのが正しいことなのだろうか。タバコを吸う人もタバコを吸わない人も、みんなの健康のためを考えれば、タバコをやめるようになる状況、タバコのない社会が最もいいのは間違いない。
タバコを吸わない人は、周囲に人のいない場所で吸えばいいのに、なぜ喫煙者が目の前に喫煙所や灰皿がある路上、子どもが遊ぶ公園、タバコ煙が漏れ出るビル裏などでタバコを吸うのか理解できないかもしれない。その理由は、ニコチンが切れると喫煙者はタバコを吸わずにはいられないからだ。
朝起きてから夜寝るまで一日中、一定時間おきにタバコを吸い、それを何十年も続けるのが喫煙という習慣であり、タバコ会社にしてみればこれほどロイヤリティの高い消費者はいない。
喫煙所を設置するのは一見すると喫煙者のためでも非喫煙者のためでもあるように思える。だが結局、ニコチン依存から逃れられない喫煙者の健康のためでもなければ、上記のアンケート調査でわかったようにタバコを吸わない人や社会のためにもならないのではないだろうか。
※1:Suzaynn F. Schick, Stanton Glantz, “Philip Morris toxicological experiments with fresh sidestream smoke: more toxic than mainstream smoke.” Tobacco Control, Vol.14, 396-404, 2005
※2:片野田耕太ら、「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業、平成27(2015)年度報告書
※3-1:Margit K. Pelkonen, et al., “The relation of environmental tobacco smoke (ETS) to chronic bronchitis and mortality over two decades.” Respiratory Medicine, Vol.154, 34-39, 2019
※3-2:Byung Jin Kim, et al., “Association between Secondhand Smoke Exposure and Hypertension in 106,268 Korean Self-Reported Never-Smokers Verified by Cotinine.” Journal of Clinical Medicine, Vol.8(8), doi.org/10.3390/jcm8081238, 2019
※3-3:Dongdong Zhang, et al., “Dose-related effect of secondhand smoke on cardiovascular disease in nonsmokers: Systematic review and meta-analysis.” International Journal of Hygiene and Environmental Health, Vol.228, July, 2020
※3-4:Lei Hou, et al., “Passive smoking and stroke in men and women: a national population-based case-control study in China.” nature SCIENTIFIC REPORTS, 7, 45542, 2017
※3-5:Minjin Zhang, et al., “The association of husbands’ smoking with wives’ dysglycemia status: A cross‐sectional study among over 10 million Chinese women aged 20‐49.” Journal of Diabetes, Vol.12, Issue5, 354-364, May, 2020
※3-6:Shigekazu Ukawa, et al., “Passive Smoking and Chronic Obstructive Pulmonary Disease Mortality: Findings From the Japan Collaborative Cohort Study.” International Journal of Public Health, Vol.64(4), 489-494, May, 2017
※4:Facebook「公衆喫煙所に関する意識調査プロジェクト」(プライベートグループ)、調査費用はウェブサイト「禁煙化推進の手引」への寄付金を利用した。
※5:Q「あなたは現在、喫煙しますか」(このアンケート調査において「喫煙」とは、メビウスやマルボロなどの紙巻きタバコを吸うこと、アイコス・プルームテック・グローなどの加熱式タバコやmyBlu・Juul・ビタフルなどの電子タバコを使用することを指します)
※6:20代:373人、30代:498人、40代:482人、50代:445人、60代以上:366人