医師に聞いた「オミクロン株も新型コロナ後遺症リスク」軽症でも要注意
新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)オミクロン株による感染拡大が続いているが、重症化や死亡リスクが低いため、それほど危機感を抱いていない人も多いようだ。しかし、社会インフラへの影響については、すでに大きな問題が出てきている。そして、無視できないのは感染者が増えればそれだけ後遺症患者も増えることだ。新型コロナの後遺症について臨床の現場で治療を続ける医師に話を聞いた(この記事は2022/02/01までの情報にもとづいて書いています)。
後遺症とは
オミクロン株について楽観的な意見を述べる人が多い。しかし、これほど指数関数的に感染者が増えて母数が増えれば、重症化や死者が増えていくのは当然だ。感染者の隔離によって医療を含めた社会インフラが機能不全に陥ることも十分に予想できるし、実際に医療スタッフや教員、エッセンシャルワーカーなどの感染による影響も出ている。
ところで、新型コロナに限らず、怪我や病状が改善されて治療を終えてからも何らかの症状が続く後遺症に悩む人は多い(※1)。新型コロナでも2020年5月頃から後遺症が問題視され始め、厚生労働省や和歌山県、茨城県などが調査をしている。
日本の厚生労働省が出した手引によると新型コロナの後遺症は、基本的には徐々に回復」し「3カ月ほどで約2/3は回復」するとしているが、英国の研究によれば退院後の5カ月で10人中2.5人しか完全に回復せず、1年後でもほとんど病状の改善がみられないケースも多いという(※2)。また、2021年11月に茨城県が発表した後遺症に関するアンケート調査によれば、女性に多く(71%)、最も多い症状は男女とも倦怠感(約5割)だった。
後遺症の代表的な症状としては、この倦怠感をはじめ、息切れ、味覚・嗅覚の障害、思考力や記憶への影響、脱毛、関節痛などがある。注意しなければならないのは、こうした新型コロナの後遺症が症状の軽かった人でも起きることだ(※3)。前述した茨城県のアンケート調査によれば、無症状者や軽症者でも6割以上に後遺症の症状がみられたという。
オミクロン株の後遺症は
オミクロン株は無症状や軽症の患者が多いとされ、それが感染防止対策に対し、やや弛緩したムードを醸成している。また、こうしたムードを助長するような意見も出始めているが、後遺症のことを考えれば感染者は少ないに越したことはない。後遺症が長く続く患者が増えれば、それが社会的なコストにもなっていくからだ。
臨床の現場で新型コロナの後遺症外来を続け、多くの患者を診てきた「みらいクリニック」(福岡県福岡市)の院長で医師の今井一彰(いまい・かずあき)氏にこの問題について話をうかがった。
──新型コロナの後遺症について、どの程度、長引くのでしょうか。
今井「後遺症の症状によって患者さんごとに違いはありますが、多くは完全に回復するまで数カ月以上かかります」
──新型コロナでは、症状によって後遺症に違いはありますか。
今井「基本的に無症状、軽症、中等症、重症に関係なく後遺症が出てきますが、デルタ株では軽症の方々が後遺症を発症する傾向があります。無症状でも数週間経って後遺症を発症することも稀ではありません。まだオミクロン株ではわかりませんが、当院を受診された後遺症の方で呼吸器を使った重症のケースは2%程度で、若年者を含めた多くの患者さんは無症状者だったり、軽症者向けのホテル療養による隔離治療中および療養後の発症です」
──新型コロナでは変異種によって後遺症に違いはあるのでしょうか。
今井「オミクロン株による後遺症は、まだ2例しか経験したことがありません。1例目の患者さんは従来とあまり変わらない後遺症の症状でしたが、2例目の患者さんはデルタ株と比べると軽症です。まだ、2例なので何とも言えませんが、初期の頃にあった超重症という印象はないようです」
──今後、オミクロン株の後遺症は増えてきますか。
今井「いまだに昨年の夏に発症した後遺症の方が受診されますから、オミクロン株の患者さんはこれから増えてくるのかもしれません。流行して数週間~数カ月経過しないと後遺症は増えないので、オミクロン株による後遺症の患者さんが出てくるのはまだこれからかもしれません」
──新型コロナのワクチンは後遺症に対してどの程度の効果が期待できますか。
今井「臨床現場の実感として、ワクチンは肺炎などの重症化は防ぐかもしれませんが、後遺症に関してはワクチンがそもそも効果があるのかさえもわからないのではないかと思っています。ワクチンによって後遺症の2/3が改善しますが、1/3は不変かむしろ後遺症の症状が悪化することもあります。私はワクチン後遺症とコロナ後遺症のワクチン後の増悪どちらも経験しています」
──特にオミクロン株について、自宅療養などで後遺症の防止のためにできることは何かあるでしょうか。
今井「これもまだはっきりとわかっていませんが、デルタ株まではほぼ95%の方に中等度以上の慢性上咽頭炎が認められました。もちろん、医師の指導による治療をし、休養や睡眠をたっぷりとるようにしていただきたいのですが、オミクロン株は咽頭の症状が強いので、首や鼻を冷やさないこと、鼻うがいなどで上咽頭をキレイにするほうがいいでしょう」
後遺症の患者へ配慮を
新型コロナの後遺症については、医学的にまだはっきりとしない部分も多い。回復後にも残ったウイルスの残骸が影響したり、過剰な免疫応答による炎症や血栓症、感染による細胞の老化などの影響も指摘されているが(※4)、血液検査やCTなどの検査をしても異常がみつからず、原因不明と診断されるケースも多い。
後遺症が起きる理由がウイルスの残骸や過剰な免疫応答だとすれば、オミクロン株による感染では、感染部位が主に気管支や肺ではなく鼻腔や咽頭で、免疫応答もマイルドとされているため、もしかすると後遺症が起きにくいのかもしれない。また、これまでの研究によれば、ワクチンを2回、接種した人が感染した場合、後遺症のリスクは低くなるという報告もある(※5)。
ただ、オミクロン株の感染では、鼻から喉までの上気道を中心にウイルスが増殖していることから、新型コロナの後遺症と似た症状を示す慢性上咽頭炎を後遺症として引き起こす危険性も指摘されている。前出の今井氏が「上咽頭をキレイに」と述べているのはこのためだ。
一方、化学物質過敏症など原因不明の多くの病気や後遺症がそうだが、倦怠感や疲労感、頭痛などの新型コロナの後遺症に苦しみ、生活の質が低下し、回復後も病欠や早退、退職などで社会生活を続けられない人に対し、気のせいやズル休みなどという非難めいた発言をしたり態度をとる人も少なくない(※6)。
新型コロナの後遺症では筋力が低下する症状も出ることがあり、高所作業などで危険にさらされることも考えられる。前述した厚生労働省の新型コロナ後遺症への手引によれば、治療にあたった医師による学校や職場への情報提供で患者への配慮を望んでいるが、オミクロン株でこれだけ感染者が増えれば、後遺症に悩む患者も増えることになる。
新型コロナに限らず、原因不明の病気や後遺症に対する偏見をなくし、社会全体で患者がもとの生活に復帰できるサポートをすると同時に、後遺症の相談窓口や治療できる受診先を増やすことも重要だろう。
※追記:
オミクロン株は、免疫を回避する能力がデルタ株より高いようだ。2回のワクチン接種でもいわゆるブレイクスルー感染するが、重症化するリスクはワクチンを接種していたほうがずっと低くなり、3回目のブースター接種ではオミクロン株の免疫回避能力を低くする作用があると考えられている。
このことから当然だが、ワクチンは打ったほうがいい。そして、これまで通り、マスクの着用、手指衛生、ソーシャルディスタンス、3密の回避などの感染予防対策をしていく必要がある。
コロナ後遺症の相談窓口(2022/02/01アクセス)
- 厚生労働省「新型コロナウイルスに関する相談・医療の情報や受診・相談センターの連絡先」
- 都立・公社病院患者支援センターへの「コロナ後遺症相談窓口」
- 神奈川県「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状について」
- 京都府「きょうと新型コロナ後遺症相談ダイヤル」
- 大阪市「新型コロナウイルス感染症について(電話相談含む)」
- 神戸市「新型コロナウイルス感染症の後遺症相談ダイヤル」
※1:Theo Vos, et al., “Years lived with disability (YLDs) for 1160 sequelae of 289 diseases and injuries 1990-2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010” THE LANCET, Vol.380, Issue9859, 2163-2196, 2013
※2-1:Ingrid Torjesen, “Covid-19: Long covid symptoms among hospital inpatients show little improvement after a year, data suggest” The BMJ, Vol.375, n3092, December, 15, 2021
※2-2:新型コロナの後遺症について、WHOでは「post COVID-19 condition」とし、日本では「COVID-19罹患後症状(後遺症、遷延症状)」という。
※3:Sandra Lopez-Leon, et al., “More than 50 long-term effects of COVID-19: a systematic review and meta-analysis” scientific reports, Vol.11, 16144, August, 09, 2021
※4:Shunya Tsuji, et al., “SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response” nature aging, doi.org/10.1038/s43587-022-00170-7, January, 25, 2022
※5:Michela Antonelli, et al., “Risk factors and disease profile of post-vaccination SARS-CoV-2 infection in UK users of the COVID Symptom Study app: a prospective, community-based, nested, case-control study” THE LANCET Infectious Diseases, Vol.22, Issue1, 43-55, January, 2022
※6-1:Ayman lqbal, et al., “The COVID-19 Sequelae: A Cross-Sectional Evaluation of Post-recovery Symptoms and the Need for Rehabilitation of COVID-19 Survivors” Cureus, Vol.13(2), e13080, 2021
※6-2:Michael J. Peluso, et al., “Persistence, Magnitude, and Patterns of Postacute Symptoms and Quality of Life Following Onset of SARS-CoV-2 Infection: Cohort Description and Approaches for Measurement” Open Forum Infectious Diseases, Vol.9, Issue2, December, 21, 2021