地球の「生命」は宇宙から来た? 日本の研究グループが新発見

 我々ヒトを含む地球上の生命は、いったいどうやって誕生したのか。これまで謎だった疑問に答えが出るかもしれない。そんな研究発表が日本の研究グループから出された。

共通祖先LUCA

 ウイルス、大腸菌、線虫、魚類、昆虫、鳥類、サル、そしてヒト、すべてに共通するご先祖さまのことを通称ルカ(LUCA、Last Universal Common Ancestor)という。地球誕生は45億4000万年前(±5000万年)とされ、生命誕生はそれから数億年経ってからと考えられている。

 まず、生命とは何かだが、一般的な定義としては生物とは、細胞膜などで外界と自分が分けられ、自分のコピーを作ることができ、外から取り込んだ物質を利用し、生命を維持できる(代謝できる)存在ということになっている。最新の研究によれば、LUCAは39億年以上前に確認されているが(※1)、この地球という惑星にどうやって生命が誕生したのかという疑問は依然として残っている。

 生命誕生のメカニズムに関する仮説はいくつかあるが、大きく二つの意見に分かれる。仮説の一つ目は、地球起源説。地球の物質から生まれたという説だ。

 太古の地球に海ができ、二酸化炭素や一酸化炭素、窒素、水(メタンやアンモニアがあったという説もある)があったと考えられている。これらの物質が混ざり合った「生命のスープ」に、紫外線などの宇宙線が浴びせられ、何らかの作用で偶然に生物が誕生したという説だ。

 仮説のもう一つは、地球外起源説だ。これは「パンスペルミア説」ともいい、汎用の意味の「パン」と精子とか種、種撒きという意味の「スペルミア」の合体語となっている。地球の外からやって来た物質が、太古の地球に何らかの作用をし、そこから生命が生まれたという説だ。

生命の重要な「部品」を発見

 この両方の仮説に関する新発見が、日本の研究グループから発表された。北海道大学低温科学研究所の大場康弘准教授、海洋研究開発機構の高野淑識上席研究員、九州大学大学院理学研究院の奈良岡浩教授、東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授らの研究グループで、太陽系の最古の隕石から生物のDNAやRNAに含まれる核酸塩基5種類(ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニン)をすべて検出したのだという(※2)。

 これまで地球外からの隕石を調べても生命の遺伝情報をになうDNAやRNAを構成する「部品」を検出した例は少ないという。例えば、新型コロナウイルスもそうだが、RNAだけでは代謝もしなければ自分のコピーも作ることはできない。RNAが酵素的な役割を持ったリボザイム(ribozyme)や核酸のように振る舞うタンパク質があったとしても自分のコピーを作ることはできないだろう(※3)。

 今回、同研究グループは、地球外からの隕石に欠けていた「部品」を新たに発見したことになる。分析に使用したのは、1969年にオーストラリアに落下したマーチソン隕石、2000年にカナダに落下したタギッシュレイク隕石、1950年に米国ケンタッキー州に落下したマレー隕石の3つ。この中でもマーチソン隕石は、これまで最も研究されてきた隕石で、太陽系ができる前、約46億年前という地球上で見つかった中で最も古い物質を含んでいるとされている(※4)。

 生命の起源と生命の「部品」探しに関しては、これまで世界中の研究者が調べてきた。同研究グループはどうやって新たな物質を見つけることができたのだろうか。論文の筆頭筆者である北海道大学の大場康弘氏にメールでコメントをいただいた。

──今回、使用したマーチソン隕石は、これまで世界中の研究者が分析してきたと思いますが、先生方はなぜ新たにピリミジン塩基を発見できたのでしょうか? 特にキーとなる技術はあったのでしょうか。

大場「これまでの隕石中核酸塩基を対象とした研究では、ギ酸という酸性の溶媒で煮だして核酸塩基を抽出していました。しかし、そうした抽出条件下では、熱水や酸に弱いシトシンは分解してしまっていた可能性があり、たとえ隕石中に存在していたとしても検出されなかった可能性があります。一方、本研究では、そうした(比較的)強い酸性条件や高温条件を一切使わなかったので、存在していたそれらの核酸塩基が無傷で抽出できたと考えています」

──マイルドな方法で隕石を扱ったというわけですね。

大場「はい。さらに、液体クロマトグラフ(LC)という超高分解能質量分析計で隕石からの抽出物を分析する際、そこにターゲットの核酸塩基以外の化学種が豊富に含まれていると、ターゲット分子の検出効率が低下してしまいます。本研究では、核酸塩基以外の夾雑物(共存化学種:無機鉱物イオンや種々の有機物)を陽イオン交換クロマトグラフィーによりできる限り除去し、核酸塩基の検出効率を上げました。また、LC分析条件を核酸塩基検出に最適化することで、共存する種々の構造異性体(元素組成は同じだが構造が異なる化合物)と核酸塩基を区別して検出することが可能になりました。それらの工夫が検出の大きなカギとなったと考えています。それ以外にも、我々が使っているコンピュータの性能向上のように、分析装置自体の検出感度も上昇しており、今回の核酸塩基検出につながったといえます」

LUCAに地球外の有機物が関与か

──このような化合物が宇宙空間にかなりの量、あると推計される場合、他の太陽系の惑星生成の過程で取り込まれたと考えれば、他の惑星にも生命誕生の可能性がありますか?

大場「今回、隕石から様々な核酸塩基が検出されたということは、宇宙の中でそうした有機化合物は普遍的に存在していると考えることができるかと思います。ただ、核酸塩基など、生体関連分子の存在だけが生命の存在をほのめかすものではないと思います。それ以外にも、地球上の生命と同様と考えたとき、水や酸素の存在、適度な温度も不可欠でしょう」

──地球上のタンパク質はほぼ左手型のL-アミノ酸ですが、今回のピリミジン塩基は、L-アミノ酸とDアミノ酸の不均等さに何か関係があるでしょうか。

大場「ピリミジン塩基とアミノ酸などの立体構造異性体は特に関係がないと思います。ちなみに、今回使った隕石から検出されたアミノ酸のD/L比はきれいに1でした」

──自己複製できる生命の部品として、隕石からピリミジン塩基が発見され、ここから生命が誕生するまでの間には、どんな材料や機能が必要とお考えでしょうか。

大場「これは非常に難しいご質問で、これを明らかにするために世界中の研究者が努力しているのかと思います。遺伝情報をになう核酸だけでいえば、核酸塩基のほかに糖とリン酸が必要ですが、それら材料が集まったとしても必ずしも核酸が生成されるわけでもないようです。逆に、核酸塩基を使わない核酸合成法も提案されています。どのような材料や機能が必要なのか、私の理解は遠く及びませんが、少なくとも炭素質隕石中には、核酸塩基、アミノ酸、糖、カルボン酸、ビタミンB3(ナイアシン:本研究でも検出)など、複数種の生態関連分子が含まれています」

──今回のご発見は、大きな意味でLUCAが宇宙由来の地球起源ということになりますか。それとも地球外起源説ということですか。

大場「必ずしもLUCAが宇宙由来ということにはならないと思います。隕石など地球外物質によって供給された有機物がそれらの材料になった可能性がありますが、それは地球上で生成した有機物の寄与を排除するものではありません。地球外物質の寄与の弱点は、その絶対量だと思います。もし、地球上で有力な核酸塩基などの生成パスがあれば、地球外物質中有機物のLUCAへの寄与は大きくないでしょう。しかし、原始地球上ではそうそう有機物合成経路が確立していない可能性がありますので、少なくとも私は地球外有機物がLUCAやその前駆体など生成に対して、何らかの寄与があると信じています」

 我々のご先祖さま、LUCAがどうやって誕生したのか。まだまだ謎は尽きない。今後、こうした研究がさらに進化し、謎の解明につながっていくだろう。


※1-1:Takayuki Tashiro, et al., “Early trace of life from 3.95 Ga sedimentary rocks in Labrador, Canada” Nature Vol.549, 516-518, 28, September, 2017

※1-2:Holly C. Betts, et al., “Integrated genomic and fossil evidence illuminates life’s early evolution and eukaryote origin” nature ecology & evolution, 2, 1556-1562, 20, August, 2018

※2:Yasuhiro Oba, et al., “Identifying the wide diversity of extraterrestrial purine and pyrimidine nucleobases in carbonaceous meteorites” nature communications, 13, 2008, 26, April, 2022

※3-1:K Kruger, et al., “Self-splicing RNA: autoexcision and autocyclization of the ribosomal RNA intervening sequence of Tetrahymena” Cell, Vol.31, Issue1,147-157, 1982

※3-2:R Green, et al., “Selection of a ribozyme that functions as a superior template in a self-copying reaction”, Science, Vol.258, No.5090, 1910-1915, 1992

※3-3:Bastien Boussau, et al., “Parallel adaptations to high temperatures in the Archaean eon” Nature, Vol.456, 942-945, 2008

※3-4:Tracey A. Lincoln, Gerald F. Joyce “Self-Sustained Replication of an RNA Enzyme” Science, Vol. 323, No.5918, 1229-1232, 2009

※3-5:Matthew W. Powner, et al., “Synthesis of activated pyrimidine ribonucleotides in prebiotically plausible conditions” nature, Vol.459, 239-242, 2009

※3-6:Tatsuo Yanagisawa, et al., “A paralog of lysyl-tRNA synthetase aminoacylates a conserved lysine residue in translation elongation factor P” nature structural & molecular biology, 2010

※4:Phillipp R. Heck, et al., “Lifetimes of interstellar dust from cosmic ray exposure ages of presolar silicon carbide” PNAS, Vol.117, Issue4, 1884-1889, 28, January, 2020