「COPD」って何? 喫煙者は「タバコ肺」に要注意

 毎年11月の第3水曜日は世界COPDデーで、今年は11月16日だった。COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、慢性気管支炎、肺気腫と呼ばれた病気の総称だ。今年5月に日本では診断と治療のガイドラインが改訂された。この記事ではCOPDという病気と治療などについて考えてみる。

タバコが多くの原因

 まず、COPDと聞いて何のことか、すぐにわかる人はそう多くないだろう。COPDは「Chronic Obstructive Pulmonary Disease」という英語の病名の頭文字だ。慢性閉塞性肺疾患という病名もわかりにくいが、慢性気管支炎や肺気腫というほうがまだ通じそうな気もする。

 筆者はこれまで何回かCOPDについての記事を書いてきた(※1)。患者さんは「息が苦しくて腕も上がらない」「食事も1日5〜6回に小分けしないと苦しくて食べられない」「入浴中に肺が水圧に抵抗しにくくなった」などの症状を訴えていた。

 日本にはCOPD患者が約530万人いると推定され、進行が遅いため、高齢になって発症が確認されることが多い。加齢によっても咳や痰、息切れなどが起きるが、加齢による症状はCOPDと紛らわしいために発見されにくい。

 COPDでは、診断される前から徐々に活動量が落ちていく。知らない間に階段を使わなくなり、エスカレータばかり利用するようになっていく。こうした呼吸困難の感じ方は個人差が大きく、長い期間をかけてだんだんその状態に慣れていき、息切れを自覚できない。

 また、肺炎など他の慢性的な疾患と間違ったりすることも多く発見や治療が遅れがちになる。そのため、はっきり症状が出てCOPDと診断されたときには、すでに病気がかなり進行しているケースも少なくない。

 COPDの最も大きな原因は、受動喫煙を含むタバコの煙だ。男性の場合、つい10年前まで喫煙率は40%程度だったから、過去の高喫煙率の影響が今になって出てきてCOPDに苦しむ患者が増えているというわけだ。

 2018年7月に亡くなった落語家の桂歌丸師匠は、喫煙者だったせいで発症したCOPDに苦しみ続け、禁煙推進とCOPDの啓発活動を続けた。その姿を記憶している人も多いだろう。

 喫煙者の5、6人に1人は60歳くらいからCOPDにかかるリスクがあるが、COPDは意外に年齢の若いうちに病気が進行することもある。特に、多くのタバコを吸うヘビースモーカーは要注意だ。

 タバコのせいで一度、低下した肺の機能はもとに戻らない。肺はひじょうに伸縮性の高い組織だが、タバコを吸うと、肺の中にタールやその他の有害物質がべっとりと付着する。こうして喫煙が原因でCOPDになり、肺が壊れて弾力性がなくなって伸縮しなくなる。

 また、受動喫煙でもCOPDになる危険性があり、紙巻きタバコと同様にニコチンを吸う加熱式タバコ(新型タバコ)でもCOPDの危険性がある。ニコチンもCOPDを引き起こす原因になると考えられているからだ。

 では、なぜタバコを吸うとCOPDになるのだろう。

 タバコの煙は、1ミクロン程度の小さな粒子だ。吸い込むと、肺の一番奥の肺胞や細気管支にたまっていく。身体には侵入してきた異物を排除しようとする働きがあり、タバコの煙の粒子は細菌を殺す白血球の防御機能を高めてしまう。その防御機能が肺の細胞を溶かして壊してしまい、COPDになってしまう。

 COPDになると、息が苦しくて動けないので仕事にも支障が出て、経済的な困窮状態になることもある。苦しいので食欲もなくなり、体力や免疫力が低下する。活動的でなくなり、閉じこもりがちになって社会とのつながりが希薄になる。つまり、COPDが進行すると、患者のQOL(生活の質)が極端に落ちてしまうリスクもある。

COPDは「タバコ肺」

 このように、COPDの原因はほぼタバコだ。そのためCOPDを「タバコ病」や「タバコ肺」という病名にしたほうがいいという意見もある。

 過去に喫煙歴があると、全く吸っていなかった人より肺の機能低下が早く進行することがある。だから、加熱式タバコを含め、タバコはなるべく早く止めたほうがいい。喫煙しなければ、COPDにはなることはほとんどない。

 肺の機能は加齢によって低減するが、タバコをやめた人とタバコを吸わなかった人の低減の割合は同じではない。タバコをやめても肺に残った異物を排除しようとする防御機能は働き続けるが、年齢の早い時期に禁煙すれば、仮にCOPDになったとしても病気の進行をゆっくりにすることができる。

 このように、タバコをやめると呼吸機能の低下の速度がゆっくりになるが、その低下の割合が大きいのかどうか、定期的に肺年齢を調べてみないとわからない。

 呼吸器科の病院では、呼吸機能検査(スパイログラム)による検査をしてもらえる。この検査では、年齢や身長、体重などの数値を算出することによって肺機能をわかりやすく説明する「肺年齢」が出る。最近ではMostGraphという装置を使い、呼吸の抵抗値を測定することでCOPDの初期状態を評価できるようにもなっている。

 だが、COPDなのに治療を受けていない患者も多く、高齢の患者では重度のCOPDになってしまっている危険性も高い。筆者が以前、取材したCOPDの患者さんは、タバコを吸えば確実に肺をやられてしまうが、そうした情報が正しく喫煙者に伝わっていないと言っていた。

 では、COPDの治療が遅れてしまうのはなぜなのだろう。その理由は、COPDという病名が一般に広く知られていないことが大きい。

 日本でのCOPDの認知度は25%前後だ。日本政府が掲げる健康日本21(第二次)では2022年までにCOPDの認知度を80%にするという目標を掲げているが、喫煙率が高かった世代の高齢化が進む日本では今後、COPDの患者が増えていくと考えられている(※2)。

 COPDは、かつては治療法が少なかったが、最近になり有効な薬物療法が開発されている。また、運動や呼吸リハビリテーションといった身体活動も治療や患者さんのQOLの向上に効果的ということがわかってきた。

 その人それぞれの可能な範囲でウォーキングなど、身体的に活動的な生活をこころがけることが大切で、それによってCOPDによる気分の落ち込みや社会的なコミュニケーションが減ることを防ぐ効果もある。身体の活動量を増やせば、食欲も増え、よく眠れ、身体の不調も少なくなり、症状の軽減につながるからだ。

 また、今年5月には「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版」(Web版)が出た。今回の改訂版では、COPDの治療に関する複数の研究(文献)を比較するシステマティック・レビューという手法を使ってエビデンスを固めたという。

 また、従来は患者さんの分類が4段階だったのを3段階に分け、将来のリスクの低減目標に「疾患進行の抑制および健康寿命の延長」をあげている。そして新型コロナの重症化リスクでもあるCOPDの診断やリハビリテーションなどについても加えられた。

 この記事を読んでCOPDが気になった40歳以上で喫煙歴のある人は一度、呼吸器科を受診して肺年齢(肺機能)を調べてみることをお勧めする。COPDは早期発見、早期治療が肝心で、息切れを感じたり咳をしたときに痰などが出るような人で60歳以上の場合、かなり前にタバコをやめたとしても要注意だ。


※1-1:歌丸師匠も苦しんだCOPD(慢性閉塞性肺疾患)〜患者と専門家の声から「タバコ病」の実態に迫る

※1-2:「肺年齢」チェックしてみませんか〜禁煙後も「COPD」に要注意

※1-3:専門家が病名「タバコ肺」を提唱するワケ〜歌丸師匠を苦しめた「COPD」原因の90%は「タバコ」だった

※2:宇野友康、佐藤英夫、「慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の 認知度調査および普及向上の検討」日呼吸誌、第2巻、第5号、2013