なぜタバコを誤飲した女児の十二指腸から「金属片」が見つかったのか

加熱式タバコのスティックに仕込まれた金属片(右)。写真撮影筆者。

 最近、喫煙者が増えてきた加熱式タバコだが、加熱式タバコのタバコ部分、スティックは紙巻きタバコに比べて細く小さい。そのため、乳幼児の誤飲事故が増えてきている。そして、中には凶器ともいえる金属片をスティック内に仕込ませた製品もある。

女児の十二指腸から金属片が

 先日、三重大学大学院医学系研究科の研究グループがある症例報告を発表した(※1、プレプリント)。生後7カ月の女児が、加熱式タバコのスティックを誤飲し、近所の救急外来を受診、腹部X線検査をすると、胃の中に金属製の物質があることがわかった。

 そのままでは腸などの消化管を傷つける危険性があるため、女児はその救急外来から三重大学の病院へ転院し、上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)による検査と金属物質の除去を行った。すると、十二指腸から薄く小さな金属片が発見されたという。この薄く小さな金属片とは、いったい何なのだろうか。

増える加熱式タバコの誤飲事故

 喫煙者の家庭にはタバコがごく普通にある。タバコは、乳幼児や子どもの興味を引きやすいため、誤飲事故が多い。好奇心旺盛な子どもは、手近にあるものに興味を示し、口に入れてみようとすることもある。タバコのパッケージは、キラキラしていたり不思議な色をしていたりするし、香料入りの場合、子どもが好きな匂いがする場合もあるだろう。

 厚生労働省が2019年に発表した調査(※2)によれば、子どもの誤飲事故でタバコがずっとトップをキープし続けている。この調査では、タバコの誤飲事故の大半が1歳前後の乳幼児に集中し、公園で遊んでいた子どもがポイ捨てされたタバコの吸い殻を口に入れていた事例の報告もあったという。

 子どもが異物を誤飲した場合、自分が何を飲み込んだのかを訴えられないこともあり、外見からも症状が出ないことも少なくない。そうなると、措置が遅れたり、麻酔をかけなければならないなど、身体的な負担が大きくなる治療法を取らざるを得なくなる。

 また、子どもの誤飲事故では、シェアの変化とともに新型タバコ(加熱式タバコ)のスティックやカプセルなどによるものが増えている。消費者庁のアンケート調査結果によれば、乳幼児が誤飲しそうになった割合は、加熱式タバコのほうが多かったといい、独立行政法人国民生活センターでは、乳幼児による加熱式タバコ(スティック)の誤飲事故に関し、繰り返し注意喚起している。

小さくて吐き出しにくい

 では、なぜ加熱式タバコなどの新型タバコのほうが、子どもが口に入れる危険性が高いのだろうか。それは既存の紙巻きタバコより、新型タバコのスティックやカプセルのほうが小さいからだ。

 また、タバコ葉に含まれるニコチンには、強い嘔吐作用がある。タバコ葉を刻んで巻いた紙巻きタバコは、子どもが口に入れるとタバコ葉の苦味で吐き出しやすいのに比べ、新型タバコのスティックはタバコ葉を板状に固めたり、プラスチックのカプセルに入れたりして、タバコ葉の苦味が感じにくい仕組みになっていることも大きい。

 さらに、新型タバコのラインナップをみると、メンソール、シトラス、ストロベリー、アップルといった香料入りが多い。子どもは甘い匂いに興味を持ちやすいので、新型タバコの誤飲事故も増えていくというわけだ。

凶悪な金属片を仕込んだスティック

 こうした新型タバコのスティックに、より危険性の高い製品が出ている。それがフィリップモリスジャパンが製造輸入販売している加熱式タバコ、アイコスのイルマのスティック、テリアとセンティアだ。

 テリアとセンティアのスティックの1本1本には、長さ約12ミリメートル、幅約3.5ミリメートルの金属片が入っている。触ってみると弾力性があるが、バリがあって角が尖り、うっかりすると指先を切ってしまいそうになる。

 冒頭で紹介した症例報告で加熱式タバコのスティックを誤飲した女児の十二指腸から見つかった金属片は、このテリアかセンティアの中に仕込まれたものだったというわけだ。

イルマのスティックとスティックに入れてある金属片(下)。右下の円筒の物体はスティックの先端に差し込まれた蓋で、これで塞いでいると子どもが口に入れてもタバコ葉の苦味を感じられない恐れがある。写真撮影筆者
イルマのスティックとスティックに入れてある金属片(下)。右下の円筒の物体はスティックの先端に差し込まれた蓋で、これで塞いでいると子どもが口に入れてもタバコ葉の苦味を感じられない恐れがある。写真撮影筆者

 スティックに金属片が入れられたテリアを子どもが誤飲すれば、口腔内を傷つけ、飲み込んでしまうと消化管を傷つけるなど、重篤な事故につながる危険性がある。このため、国内販売をするフィリップモリスジャパンは下記のような声明を出している。

「フィリップ モリス ジャパン合同会社」より(2023年1月12日)

【誤飲防止に向けたフィリップ モリス ジャパンの取組み】

1. 誤飲防止の啓発

当社たばこ製品の乳幼児による誤飲を防止するため、継続してお客様に注意喚起を行い、乳幼児の手の届かない場所での管理を下記の方法でお願いしております。

(1)すべての「たばこ製品」(パック・カートン)上で注意喚起を掲載

(2)金属片を含む「たばこスティック」製品(パック・カートン)上でたばこスティックを誤飲した際のリスクについて注意喚起を図るため注意文言を掲載

(3)金属片を含む「たばこスティック」製品のすべての広告用マテリアルに、たばこスティックを誤飲した際のリスクについて注意喚起を図るための注意文言を掲載

 こんな声明を出す一方で、テリアのパッケージ表示に書かれた金属片についての説明は虫眼鏡で見ないとわからないほど小さい。

テリアの警告表示。「本製品には飲み込むと大ケガにつながりかねない尖った金属片が含まれています」とあるが、小さな文字で色も読みにくい。写真撮影筆者
テリアの警告表示。「本製品には飲み込むと大ケガにつながりかねない尖った金属片が含まれています」とあるが、小さな文字で色も読みにくい。写真撮影筆者

 では、フィリップモリスは、なぜアイコスのスティックにこのような金属片を入れたのだろうか。

 その理由はアイコスの加熱方式にある。イルマ以外のアイコスは、金属ブレードをスティックに差し込み、金属ブレードを加熱しているが、この部品が破損しやすく、差込口の中の清掃もしにくい構造になっている。

 デバイスの保証修理や交換、クレーム対応のコスト、清掃が不十分なことでの有害物質の発生といったリスクなどが無視できなくなり、スティックの金属片を加熱する方式を開発したのだろう。

子どもの手の届かない場所へ

 タバコ葉にはニコチンが含まれているが、ニコチンは薬機法(旧薬事法)によって劇毒物に指定され、許可を得て適切な管理のもとでなければ使用・販売することはできない。

 なぜなら、ニコチンには強い毒性があるからだ。体重1kg当たりニコチン1~13mgが成人の致死量とされ、90kgの成人では1.8%のニコチン溶液5mLで致死量に達し(※3)、乳幼児のニコチン経口致死量は10〜20mg(タバコ半分〜1本分)と考えられている。

 子どもがタバコ製品を口に入れれば発見しにくく、嘔吐せずに消化器官へ送り込まれ、ニコチンが吸収される危険性は高い。

 さらに、金属片が仕込まれているとすれば、かなり凶悪な製品と言うほかはない。子どもが尖った異物を飲み込み、診断が遅れると重篤な合併症のリスクが高まるからだ(※4)。

 一方で、誤飲されたタバコ製品はX線検査ではわからないが、テリアとセンティアは金属片を使っているのでX線検査でわかる。冒頭の研究グループは、どんなタバコ製品を誤飲したのかわからない場合、これらの製品の可能性があるなら、X線検査を使うことで体内のどこにあるかなどを明らかにすることができると述べている。

 厚生労働省は、喫煙者は紙巻きタバコや加熱式タバコのスティックなどを放置せず、目の届かない場所に保管し、子どもの行動に注意するよう呼びかけている。冒頭の症例報告では生後7カ月の乳児なので、このスティックは灰皿に残されたまま、床に放置されていたのかもしれない。

子どもの手が届く範囲は、1歳児では台の高さが50cmの場合、台の手前から40cmまでとされている。国民生活センターのHPより。
子どもの手が届く範囲は、1歳児では台の高さが50cmの場合、台の手前から40cmまでとされている。国民生活センターのHPより。

 また、冒頭で紹介した三重大学大学院の研究グループは、内視鏡の先端にキャップを装着して検査することを推奨している。

 キャップを付けると内視鏡の挿入が容易になり、空気を入れずに内視鏡を進ませていくことができ、患者さんの苦痛が軽減され、検査時間の短縮も期待される。また、キャップ部分で消化管内の襞などをめくりながら観察できるので異常部位を発見しやすくなるなどの利点があるからだ。

 もし、子どもがタバコを誤飲した、もしくは痕跡や症状からそれが疑われる場合、すぐに吐き出させるのが最も重要な措置だが、同時に医療機関へ連絡して治療を受け、症状によっては救急搬送も依頼すべきだ。ニコチンの吸収を早めてしまうため、吐き出させるためとしても、水やミルクなどを飲ませることは避けたい。


※1:Koki Higashi, et al., “Extraction of a metallic susceptor after accidental ingestion of the heated tobacco product TEREA TM: a case report” Research Square, doi.org/10.21203/rs.3.rs-2971843/v1, 9, June, 2023

※2:厚生労働省 医薬・生活衛生局 医薬品審査管理課化学物質安全対策室、「2018年度 家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」、2019年12月25日

※3-1:Bernd Mayer, “How much nicotine kills a human? Tracing back the generally accepted lethal dose to dubious self-experiments in the nineteenth century.” Archives of Toxicology, Vol.88, Issue1, 5-7, 2014

※3-2:Robert A. Bassett, et al., “Nicotine Poisoning in an Infant.” The New England Journal of Medicine, Vol.370, 2249-2250, 2014

※4:Baran Tokar, et al., “Ingested gastrointestinal foreign bodies: predisposing factors for complications in children having surgical or endoscopic removal” Pediatric Surgery International, Vol.23, 135-139, 17, October, 2006