「すい臓がん」リスクは「野菜」を多く食べても「タバコ」を吸えば上がる

 早期発見と適切な治療が最も効果的な膵がんだが、そのリスク因子は、慢性膵炎、糖尿病、家族歴、肥満、喫煙などだ。今回、果物の摂取でリスクが下がり、野菜の摂取でリスクが上がるという調査研究が出た。

膵がん予防はバランスのいい食事と禁煙と運動

 活性酸素によりDNAやタンパク質などが傷つけられたり細胞に障害が起きる酸化ストレスは、がん、動脈硬化や心筋梗塞などの心血管疾患、パーキンソン病やアルツハイマー病といった脳神経疾患など様々な病気に関係していると考えられている(※1)。

 そのため、タバコを吸うと酸化ストレスが生じ、心血管疾患やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といった呼吸器系の病気になる(※2)。これは受動喫煙でも同じだ(※3)。

 膵臓にできる膵がん(浸潤性膵管がん)は早期発見が難しく、高齢者に比較的多く発症する(60歳頃から増加)し、高齢化により男女共に死亡率が上がっている。がんの死因の第4位であり、術後生存率も低い(全症例で5年後相対生存率9.1%、※4)のが膵がんだ。

 膵がんを予防するには、喫煙者なら禁煙、膵炎を防ぐために暴飲暴食をやめること、糖尿病の治療、適度な運動やバランスの取れた食事を摂ることなどが効果的とされる。

 果物や野菜には抗酸化物質が含まれているために酸化ストレスによる悪影響を下げる役割があるとされている(※5)。また、慢性的に膵臓に炎症が生じる慢性膵炎も膵がんのリスク因子だが、果物や野菜には抗炎症作用のある物質も含まれているため、これらの摂取は膵がんの予防に関係するとも考えられる。

果物と野菜は膵がんを予防するか

 今回、日本の国立がん研究センターの社会と健康研究センターの予防研究グループにより、果物と野菜を食べるとどれくらい膵がんのリスクを下げることができるかという調査研究が国際対がん連合(Union for International Cancer Control)の医学雑誌『International Journal of Cancer』オンライン版に出された(※6)。

 この研究では、1995(平成7)年と1998(平成10)年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(2018年の名称)管内の45〜74歳の9万185人(女性4万8286人)の居住者を対象に、2013(平成25)年まで追跡した調査結果から、138食品が含まれる食品摂取頻度調査をもとにした果物(17品目)と野菜(29品目)の摂取状況と膵がんの罹患の関係を探ったという。

 対象者は、果物と野菜の摂取量によって4つのグループに分けられ、最も摂取量の少ないグループと他の3グループを比較し、膵がんにかかるリスクがどれくらい高くなるか調べた。また、年齢、性別、地域、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病の既往歴、膵がんの家族歴、魚の摂取量、肉の摂取量、運動習慣、コーヒーの摂取、エネルギー摂取量といった項目で調整し、それぞれの要素が結果に影響しないようにしたという。

 追跡調査をしたところ、果物と野菜を最も少なく摂る群と比べて多く摂る群の特徴は、高齢者(中央値55歳:58歳)で、健康に気を配っているが糖尿病の既往歴が高く(5%:5.9%)、喫煙率(現在喫煙者)が低く(37.4%:13.5%)、飲酒量とコーヒーの摂取量が少なく、運動習慣がある女性(男性64.6%:33.6%)だったという。

タバコが強く関係する膵がん罹患

 そして、9万185人(143万3854人年)のうち、577人(女性263人)が膵がんと診断され、果物の摂取量の少ない群に比べて多い群で膵がんの罹患リスクが下がっており、特にタバコを吸わない人で特徴的だった。

 ところが、野菜の摂取量の少ない群にくらべ、多い群で膵がん罹患リスクは下がらず(統計的に有意ではない)、むしろ上がる傾向もうかがえた。さらにこちらでも、タバコを吸う喫煙者で罹患リスクが増加することが統計的に明らかになったという。

果物、野菜の摂取量で4グループに分けた膵がんの罹患リスク。Q1が最も摂取量が低い群、Q4が最も多く食べていた群。Via:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究グループ「果物・野菜摂取と膵がん罹患の関連について」(2018/11/06アクセス)

 特に、野菜の摂取量と膵がん罹患リスクをタバコを吸わない人(5万6180人)と喫煙者(2万8705人)で比べてみると、タバコを吸わない人では野菜の摂取量で罹患リスクに違いはみられなかったが、喫煙者では野菜の摂取量が最も低い群と比べて最も多い群で罹患リスクが上がる傾向にあった(1:1.48)。

 研究グループによれば、果物を多く食べることで膵がんにかかるリスクを下げる可能性のあることがわかったが、これは先行研究にあるとおり、果物に含まれる抗酸化物質の影響だろうという。

 一方、野菜のほうでは、タバコ喫煙で野菜を多く食べるほどリスクが顕著に増加しているが、その関係についてはよくわからないとし、今回の調査では膵がんの症例数が必ずしも十分ではなかったので今後の調査研究が必要とした。

 研究グループが指摘するように偶然かもしれないし、野菜に含まれる物質とタバコ由来物質が関連し合っているのかもしれない。論文データでは、飲酒(エタノール摂取量)はあまり膵がんのリスクに関係していないようだが、喫煙者の飲酒によって野菜(食事)の量が変わってくる可能性もある。

 いずれにせよ、タバコ喫煙は膵がんにかかるリスクを高める。果物を食べるとともに、もちろん緑黄色野菜などもバランスよく食べ、酸化ストレスと炎症を抑えることが重要だろう。


※1-1:Barry Halliwell, “Oxidative stress and cancer: have we moved forward?” Biochemical Journal, Vol.401, Issue1, 1-11, 2007

※1-2:Marian Valko, et al., “Free radicals and antioxidants in normal physiological functions and human disease.” The International Journal of Biochemistry & Cell Biology, Vol.39, Issue1, 44-84, 2007

※1-3:Simone Reuter, et al., “Oxidative stress, inflammation, and cancer: How are they linked?” Free Radical Biology and Medicine, Vol.49, Issue11, 1603-1616, 2010

※1-4:Thomas Heitzer, et al., “Endothelial Dysfunction, Oxidative Stress, and Risk of Cardiovascular Events in Patients With Coronary Artery Disease.” Circulation, Vol.104, 2673-2678, 2001

※1-5:Shigetada Furukawa, et al., “Increased oxidative stress in obesity and its impact on metabolic syndrome.” The Journal of Clinical Investigation, Vol. 114(12), 1752-1761, 2017

※2:H van der Vaart, et al., “Acute effects of cigarette smoke on inflammation and oxidative stress: a review.” Thorax, Vol.59, 713-721, 2004

※3:Musrafa Kosecik, et al., “Increased oxidative stress in children exposed to passive smoking.” International Journal of Cardiology, Vol.100, Issue1, 61-64, 2005

※4:全がん協加盟施設の生存率共同調査「全がん協生存率」2005〜2009年のデータ:部位:膵臓、臨床病期:全病期、年齢:全年齢、性別:男女、組織診断:全て

※5:Joanne L. Slavin, et al., “Health Benefits of Fruits and Vegetables.” Advances in Nutrition, Vol.3, Issue4, 506-516, 2012

※6:Yoko Yamagiwa, et al., “Fruit and vegetable intake and pancreatic cancer risk in a population‐based cohort study in Japan.” International Journal of Cancer, doi.org/10.1002/ijc.31894, 2018