新型コロナ感染症:電子タバコと同様に「加熱式タバコ」もヤバいのか? COVID-19:Are Heated Cigarette as bad as E-Cigarette?

 最近、紙巻きタバコと電子タバコを併用する喫煙者は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染リスクが7倍、高くなるという米国の研究が出た(※1)。電子タバコがまだ吸われていない日本の新型タバコの場合、タバコ葉を加熱するアイコス(IQOS)などの加熱式タバコが多く吸われている。加熱式タバコも電子タバコのように新型コロナの感染リスクが高くなるのだろうか。

喫煙は新型コロナの重症化や死亡のリスク要因

 米国の中高生の間で電子タバコの喫煙が2011年から2015年の間に3倍以上に増加したと米国政府(保健福祉省、HHS)が懸念を示したのは2016年12月のことだ(※2)。米国では2019年の夏頃に、電子タバコを吸ったことが原因で2000人以上の患者と40人以上の死者を出すような健康被害が起きている。

 一方、日本ではニコチンを添加した電子タバコが規制されているため、タバコ会社が提供する加熱式タバコの喫煙者が増えている。また、2019年に出た論文によれば、日本での紙巻きタバコと加熱式タバコの二重使用(デュアルユーザー)は67.8%というように、屋外や自宅、喫煙所などの喫煙環境によって吸うタバコの種類を変える喫煙者も多いようだ(※3)。

 2020年に入ってからは新型コロナと喫煙、タバコの関係について多くの研究が出た。現在(2020年9月)、喫煙者や過去喫煙者(禁煙者)で新型コロナの重症化や死亡のリスクが高くなることがわかっている(※4)。

 喫煙者は、新型コロナウイルスが人体へ侵入する足がかりとなるACE2という酵素受容体が増え、ウイルスの侵入を容易にするTMPRSS2などの酵素も非喫煙者より多くなる傾向がある(※5)。このため、喫煙者では新型コロナの感染リスクを高めると考えられているが、喫煙者はそもそも肺炎やインフルエンザにかかりやすい(※6)。

 前述したように、2019年に電子タバコで健康被害が起きた米国では、若年層の電子タバコ喫煙と新型コロナに関する研究も多い。最近、米国のスタンフォード大学などの研究グループが、13歳から24歳までの米国人4351人(女性2832人)を対象にしたオンライン調査を用い、重み付け調整して分析して新型コロナ(受診歴、感染検査など)との関連を調べた(※1)。

 その結果、紙巻きタバコと電子タバコの二重使用の喫煙者は、新型コロナの感染リスクは非喫煙者の約7倍も高くなったという。こうした二重使用喫煙者が新型コロナの症状を示すリスクは約4.7倍、感染検査を受ける割合は9倍以上であり、電子タバコのみの感染リスクは約5倍、紙巻きタバコのみの感染リスクは約2.3倍だった。

 日本では電子タバコの喫煙者はそれほど多くないが、アイコスやグロー(glo)、プルームテック(Ploom TECH)といった加熱式タバコの喫煙者は増え続けている。日本における紙巻きタバコと加熱式タバコの二重喫煙者の割合は、前述した研究によれば約68%だが、2018年の国民健康・栄養調査では8.6%(男性8.5%、女性8.8%)という結果が出ている(※7)。

加熱式タバコはどうなのか

 では、米国の紙巻きタバコと電子タバコの二重喫煙者で新型コロナの感染リスクが高くなったようなことが、加熱式タバコでも起きるのだろうか。加熱式タバコに関する研究自体、まだ少ないが細胞毒性や呼吸器への悪影響について調べた論文はいくつかある。

 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループによる試験管内ではなくラットを使った研究論文(※8)では、アイコスのエアロゾルをラットに吸わせ、血管内皮細胞の機能を評価した。その結果、紙巻きタバコと同様にニコチンによると思われる作用でアイコスでも心血管の内皮機能への悪影響が見られたという。

 呼吸器への悪影響はどうだろうか。米国のカリフォルニア大学リバーサイド校の研究グループの論文(※9)によれば、アイコスによるマウスの線維芽細胞への悪影響は紙巻きタバコより低減されていたものの、呼吸器の細胞を含むより多様な細胞で実験してみたところ、ほとんど紙巻きタバコと同様の悪影響がみられたという。

 また、オーストラリアのタスマニア大学の研究論文(※10)によれば、アイコスは同じようにヒトの肺細胞などの呼吸器へ悪影響を及ぼし、呼吸器系の感染症になるリスクを高めることがわかったという。この研究グループでは、アイコスのエアロゾルは細胞を殺すより生体代謝を妨げ、肺の機能を減退させる危険性があると警告している。

 実際、アイコスによる急性好酸球性肺炎の症例報告もある(※11)が、アイコスやグロー、プルームテックの一部製品は、タバコ葉を加熱して不完全燃焼させ、ニコチンやグリセリン、プロピレングリコールなどを含むエアロゾルを吸い込む。こうしたニコチン・デリバリー製品に共通しているのが、ニコチンの強い依存性により禁煙を難しくし、製品を継続的に売り続けるビジネスモデルだ(※12)。

 また、加熱式タバコに含まれるグリセリンやプロピレングリコールを加熱するとホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトンといった毒性物質が発生する(※13)。さらに、加熱する金属ブレードからカドミウム、鉛、クロムといった物質が出てくる危険性も高い(※14)。

 加熱式タバコからはPM2.5などの微小粒子も出る。

 イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学などの研究グループが、アイコス(6種類のHEETS)、ブリティッシュ・アメリカンタバコのグロー(glo、4種類のNeoスティック)、そして電子タバコのJUUL(3種類のリキッド)、紙巻きタバコ(マールボロ・ゴールド)を使い、それぞれが発生する直径が10μm、4μm、2.5μm、1μmのサイズの粒子状物質(Particulate Matter、PM)を屋内環境での濃度で分析比較したところ、全ての新型タバコで粒子状物質による空気の悪化が観察され、12秒ほどの短時間に急激に粒子状物質の濃度が高まる傾向があったという(1立方メートルあたり22,800~46,500μg、※15)。

 こうした微小粒子状物質は肺など呼吸器の奥まで入り込み、喘息や気管支炎といった病気にかかりやすくなるが、加熱式タバコも電子タバコと同じような健康リスクがあると考えられる。そして、ニコチン依存によって毎日欠かさず、定期的に喫煙し、それを長期間続けるというタバコ会社が仕掛けたビジネスモデルにより、こうした有害物質を少しずつ呼吸器や体内へ送り込むことで、気管や肺などのバリア機能を減退させることになる。

 以上をまとめると、喫煙によって新型コロナの重症化や死亡のリスクは高まる。感染リスクでは、米国の電子タバコを喫煙する若年層で新型コロナの感染リスクが高かった。

 ニコチンを添加した電子タバコと同じような製品である加熱式タバコも、これまでの研究から健康への害があることがわかっている。新型コロナでは地域や人種、社会階層、性別によって感染や重症化のリスクに違いがあるが、タバコと同様、加熱式タバコでも重症化や死亡のリスクが上がり、電子タバコの例をみれば感染リスクも高くなる危険性があると考えられる。

※1:Shivani Mathur Gaiha, et al., “Association Between Youth Smoking, Electronic Cigarette Use, and Coronavirus Disease 2019” Journal of Adolescent Health, doi.org/10.1016/j.jadohealth.2020.07.002, August, 11, 2020

※2:A Report of the Surgeon General, “E-Cigarette Use Among Youth and Young Adults” U.S. Department of Health and Human Services, 2016

※3:Edward Sutanto, et al., “Prevalence, Use Behaviors, and Preferences among Users of Heated Tobacco Products: Finding from the 2018 ITC Japan Survey.” International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.16, Issue23, 2019

※4-1:Jaber S. Alqahtani, et al., “Prevalence, Severity and Mortality associated with COPD and Smoking in patients with COVID-19: A Rapid Systematic Review and Meta-Analysis” PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0233147, May, 11, 2020

※4-2:Mandeep R. Mehra, et al., “Cardiovascular Disease, Drug Therapy, and Mortality in Cover-19” The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.382, e102, June, 18, 2020

※4-3:Shruti Gupta, et al., “Factors Associated With Death in Critically Ill Patients With Coronavirus Disease 2019 in the US” JAMA Internal Medicine, doi:10.1001/jamainternmed.2020.3596, July, 15, 2020

※4-4:Rohin K. Reddy, et al., “The effect of smoking on COVID-19 severity: A systematic review and meta-analysis” Journal of Medical Virology, doi.org/10.1002/jmv.26389, August, 4, 2020

※5-1:Samuel J. Brake, et al., “Smoking Upregulates Angiotensin-Converting Enzyme-2 Receptor: A Potential Adhesion Site for Novel Coronavirus SARS-CoV-2 (Cove-19)” Journal of Clinical Medicine, Vol.9(3), March, 20, 2020

※5-2:Haijun Zhang, et al., “Expression of the SARS-CoV-2 ACE2 Receptor in the Human Airway Epithelium” American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, Vol.202, Issue2, May, 19, 2020

※5-3:Irena Voinsky, David Gurwitz, “Smoking and COVID-19: Similar bronchial ACE2 and TMPRSS2 expression and higher TMPRSS4 expression in current versus never smokers”

※6-1:Vadsala Baskaran, et al., “Effect of tobacco smoking on the risk of developing community acquired pneumonia: A systematic review and meta-analysis” PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0220204, 2019

※6-2:Lefei Han, et al., “Smoking and Influenza-associated Morbidity and Mortality A Systematic Review and Meta-analysis” Epidemiology, Vol.30, No.3, 2019

※7:厚生労働省、「平成30年国民健康・栄養調査報告

※8:Pooneh Nabavizadeh, et al., “Vascular endothelial function is impaired by aerosol from a single IQOS HeatStick to the same extent as by cigarette smoke.” Tobacco Control, Vol.27, s13-s19, 2018

※9:Barbara Davis, et al., “Comparison of cytotoxicity of IQOS aerosols to smoke from Marlboro Red and 3R4F reference cigarettes.” Toxicology in Vitro, Vol.61, 2019

※10:Sukhwinder Singh Sohal, et al., “IQOS exposure impairs human airway cell homeostasis: direct comparison with traditional cigarette and e-cigarette.” ERJ open research, Vol.5, Issue1, 2019

※11:Toufic Chaaban, “Acute eosinophilic pneumonia associated with non-cigarette smoking products: a systematic review” Advances in Respiratory Medicine, Vol.88, No.2, 2020

※12-1:L Dawkins, et al., “‘Vaping’ profiles and preferences: An online survey of electronic cigarette users. Addiction, Vol.108(6), 1115-1125, 2013

※12-2:K L, Marynak, et al., “Sales of nicotine-containing electronic cigarette products: United states, 2015.” American Journal of Public Health, Vol.107(5), 702-705, 2017

※13:Leon Kosmider, et al., “Carbonyl Compounds in Electronic Cigarette Vapors: Effects of Nicotine Solvent and Battery Output Voltage.” Nicotine & Tobacco Research, Vol.16(10), 1319-1326, 2014

※14-1:Aaron Scott, et al., “Pro-inflammatory effects of e-cigarette vapour condensate on human alveolar macrophages.” BMJ Thorax, doi.org/10.1136/thoraxjnl-2018-211663, 2018

※14-2:Lurdes Queimado, et al., “Electronic cigarette aerosols induce DNA damage and reduce DNA repair: Consistency across species.” PNAS, doi/10.1073/pnas.1807411115, 2018

※14-3:Karena D. Volesky, et al., “The influence of three e-cigarette models on indoor fine and ultrafine particulate matter concentrations under real-world conditions.” Environmental Pollution, doi.org/10.1016/j.envpol.2018.08.069, 2018

※14-4:Pablo Olmedo, et al., “Metal concentrations in e-cigarette liquid and aerosol samples: the contribution of metallic coils.” Environmental Health Perspectives, Vol.126(2), 2018

※14-5:Sumit Gaur, Rupali Agnihotri, “Health Effects of Trace Metals in Electronic Cigarette Aerosols- a Systematic Review.” Biological Trace Element Research, Vol.188, Issue2, 295-315, 2019

※14-6:Arunava Ghosh, et al., “Chronic E-Cigarette Use Increases Neutrophil Elastase and Matrix Metalloprotease Levels in the Lung.” ATS Journal, doi.org/10.1164/rccm.201903-0615OC, 2019

※15:Carmela Protano, et al., “Impact of Electronic Alternatives to Tobacco Cigarettes on Indoor Air Particular Matter Levels.” International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.17, 2947, doi:10.3390/ijerph17082947, 2020