太陽光発電の「ソーラーパネル」の下で、そうだ「子羊」を育てよう
新幹線や旅客機で移動していると、車窓の風景の中に太陽光発電のためのソーラーパネルが急増していることに気づく。地球温暖化防止のために再生可能エネルギーの拡大が必要だが、自然エネルギーを利用する場合、また別の環境負荷がかかったり防災上の問題が出てきたりする。最新研究では、ソーラーパネルの周囲で子羊を育てるとこうした問題解決に効果的なことがわかった。
2009年に始まった再生可能エネルギー普及のための電力固定価格買取制度(Feed In Tariff、FIT)は、2011年開始分の2021年(10年)で満了となるが、この12年間で風力発電や太陽光発電など日本中に多くの再生可能エネルギーの発電施設ができた。満了後(卒FIT)のためのノウハウや技術も広がりつつあるが、各地にできた大規模な発電施設の維持管理も問題になっている。
日本は東西南北に広く、地域によって日照時間が大きく違う。そのための最適化として山間地や急傾斜地などの森林を伐採し、ソーラーパネルを設置するケースも多かった。
そのため、山間地の保水力が下がるなどし、防災上の懸念材料になっていたり、土砂が流出して河川に流れ込み、下流域や海岸に影響を及ぼすなどの問題が起きたりしている。また、FIT制度利用が投機的なビジネスモデル化することで発電施設が急増し、自然環境の保全を求める地域住民との対立を生んだりするようにもなっている。
しかし、太陽光発電は地球温暖化防止の炭素排出量削減には欠かせないエネルギーであることは確かだ。再生可能エネルギーを得ることと持続可能な土地利用の両立、この問題はどう解決すればいいのだろうか。
米国オレゴン大学の研究グループが最近、発表した論文(※)では、この問題解決に「Agrivoltaics」という手法を使うことを推奨している。同研究グループによると、この手法を取り入れれば世界の土地の生産性を35%から73%も向上させ、強い日光や乾燥に弱い作物を組み合わせることで収穫量を増やすことも可能だという。
例えば、ソーラーパネルの下で生花を育てることで開花のタイミングを遅らせ、差別化させて商品価値を上げることができる。
同じようなアイディアは日本でもすでに「営農型太陽光発電」として推進され、農林水産省が後押しをしている。一方、国が脱炭素化へ進む中、荒廃農地を転用した場合の収穫量要件の撤廃などをしているが、政策的にエネルギーと食糧生産との兼ね合いを考えていくことも重要だろう。
オレゴン大学の研究グループによる「Agrivoltaics」を唱える論文では、この営農型太陽光発電の手法に牧畜・畜産を取り入れたらどうかと提案し、家畜にとってソーラーパネルが木陰や避難場所、下生え伐採や除草剤散布のコストを削減できるとしている。
普段は人が立ち入らない山林の斜面に設置された太陽光発電施設の周囲に、子羊などを放牧すればいいのではないかというのだ。実際、ソーラーパネルが設置されていない牧草地と設置されている牧草地で子羊の生育を比較したところ、ほぼ同じ(普通の牧草地1.3kg/ha:ソーラーパネル1.5kg/ha)で、年間の収益は普通の牧草地が1046ドル/haに比べ、ソーラーパネル牧草地は1029ドル/haだった。
日本では土地の確保やソーラーパネル設置のための造成にかかる初期費用がまだ高く、FIT後の売電価格もみえない中、なかなか太陽光発電が広がらないのが現状だ。また、無視できないのが維持費だが、営農型太陽光発電に畜産を組み合わせることで、コストの面で解決できる可能性がみえてくるのかもしれない。
※:Alyssa C. Andrew, et al., “Herbage Yield, Lamb Growth and Foraging Behavior in Agrivoltaic Production System” frontiers in Sustainable Food Systems, doi: 10.3389/fsufs.2021.659175, 29, April, 2021