「新型タバコ」はどれだけ「空気を汚す」のか:最新研究から「受動喫煙の害」を考える

 いわゆる加熱式タバコ、新型タバコの受動喫煙が問題視され始めている。有害物質の低減をうたう新型タバコだが、排出される煙からどれだけ有害物質が出ているのか、まだよくわかっていない。最新の研究から新型タバコの受動喫煙による害を推定する。

増えている加熱式などの新型タバコ

 タバコ製品に占める新型タバコ(加熱式タバコ)の割合が増えている。タバコ業界の試算によれば、2021年末には3割を超えているようだ。最近の研究では、新型タバコの喫煙者の増加により、タバコを吸わない人の受動喫煙の機会も増えている(※1)。

 新型タバコの多くは、タバコ葉を燃やさずにニコチンが揮発する程度の温度に熱し、喫煙者はその蒸気のような煙を吸い込む。この煙の中には、これまでの研究によってニコチンはもちろん、アセトアルデヒドなどの発がん性物質が含まれ、喫煙者の遺伝子にも影響を及ぼすことがわかっている(※2)。

 では、新型タバコによる受動喫煙の害についてはどうだろう。

 韓国のソウル大学などの研究グループによる、紙巻きタバコから新型タバコに切り替えたマンションに住む喫煙者を対象にした調査報告によれば、調査対象の喫煙者の51.5%が建物の外や内での喫煙頻度が増えたと回答し、禁煙マンションに居住していない調査対象喫煙者の30.4%が建物内での喫煙頻度が増えたと回答した(※3)。

新型タバコでも受動喫煙の害はある

 大阪大学などの研究グループによる調査報告によれば、新型タバコからの呼出煙(喫煙者が吐き出した呼気に含まれるタバコの煙)や副流煙(喫煙者が吸い込む以外のタバコ製品から出る煙)にさらされた人に喉の痛み、咳、喘息の発作、頭痛、胸の痛み、気分が悪くなるなどの自覚症状があり、従来の紙巻きタバコと同様の症状が出たという(※4)。

 産業医科大学などの研究グループによる研究によれば、新型タバコの煙にさらされた人の尿を調べたところ、紙巻きタバコによる受動喫煙と同様にニコチンの代謝物であるコチニン、健康影響のバイオマーカー物質としてタバコ特異的ニトロソアミン代謝物(NNK代謝物)である4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1- butanol(NNAL)などが検出された(※5)。

 韓国の疾病管理庁などの研究グループが新型タバコ喫煙者の呼気中の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、VOC)をガスクロマトグラフィーで調べたところ、2-メチルフラン、ピリジンが検出されたという。研究グループは、新型タバコの受動喫煙の指標としてこれらのVOCを使うことができるのではないかと述べている(※6)。

 熊本大学などの研究グループが最近発表した調査報告によれば、新型タバコを吸う父親のいる家庭の配偶者と子どもの尿を液体クロマトグラフィーで調べたところ、タバコを吸わない父親の配偶者と子どもより尿中のコチニンなどのニコチン代謝物のレベルが有意に高かった。これにより、新型タバコでも受動喫煙が起きていて、配偶者や子どもは新型タバコからのニコチンにさらされていることがわかる(※7)。

 以上をまとめると、新型タバコでも受動喫煙が生じ、その煙にさらされると喉や頭、胸の痛みなどが起き、喫煙者の家族にも影響が出るということだ。新型タバコにも有害物質が含まれているのだから、その受動喫煙にも害があるのは明らかだろう。


※1:Yudai Tamada, et al., “Secondhand Aerosol Exposure From Heated Tobacco Products and Its Socioeconomic Inequalities in Japan: The JASTIS Study 2017–2020” NICOTINE & TOBACCO RESEARCH, doi.org/10.1093/ntr/ntac074, 21, March, 2022

※2-1:Kanae Bekki, et al., “Comparison of Chemicals in Mainstream Smoke in Heat-not-burn Tobacco and Combustion Cigarettes” Jouranl of UOEH, Vol.39, No.3, 2017

※2-2:Hideki Ohmomo, et al., “DNA Methylation Abnormalities and Altered Whole Transcriptome Profiles after Switching from Combustible Tobacco Smoking to Heated Tobacco Products” CANCER EPIDEMIOLOGY, BIOMARKERS & PREVENTION, Vol.31(1), 269-279, 11, January, 2022

※2-3:Zuoying Wen, et al., “Time-resolved online analysis of the gas- and particulate-phase of cigarette smoke generated by a heated tobacco product using vacuum ultraviolet photoionization mass spectrometry” Talenta, Vol.238, Part2, 1, February, 2022

※2-4:Malak El-kaasamani, et al., “Analysis of mainstream emissions, secondhand emissions and the environmental impact of IQOS waste: a systematic review on IQOS that accounts for data source” Tobacco Control, doi:10.1136/tobaccocontrol-2021-056986, 13, May, 2022

※3:Jieun Hwang, Sung-il Cho, “A comparative study on changes in the use of heat-not-burn tobacco products based on whether apartment buildings have designated non-smoking areas” Tobacco Prevention & Cessation, Vol.7, 15, June, 2021

※4:Yuki Imura, Takahiro Tabuchi, ”Exposure to Secondhand Heated-Tobacco-Prodact Aerosol May Cause Similar Incidence of Asthma Attack and Chest Pain to Secondhand Cigarette Exposure: The JASTIS 2019 Study” Environmental Research and Public Health, Vol.18(4), 11, February, 2021

※5:Yuya Kawasaki, et al., “Urinary biomarkers for secondhand smoke and heated tobacco products exposure” Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, Vol.69, No.1, 37-43, 2021

※6:Young Hwan Cho, et al., “Pilot Study on the Determination of Volatile Organic Compounds (VOCs) in Exhaled Breath of Each Cigarette Type” Journal of the Korean Society for Research on Nicotine and Tobacco, Vol.12(1), 24-33, 15, June, 2021

※7:Ayumi Onoue, et al., “Association between Fathers’ Use of Heated Tobacco Products and Urinary Cotinine Concentrations in Their Spouses and Children” Environmental Research and Public Health, Vol.19(10), 6275, 21, May, 2022