新型コロナ:後遺症リスク「喫煙者」8.39倍、睡眠の質が悪い人は3.53倍

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)で無視できないのは、感染者が増えればそれだけ後遺症(罹患後症状、遅延症状)の患者も増えることだ。オミクロンによる第7波の感染者は膨大な数になっているが、英国の研究によれば喫煙者の後遺症リスクは非喫煙者の8.39倍という結果が出た(この記事は2022年9月12日時点の情報に基づいています)。

後遺症患者、オミクロンで激増か

 怪我や病状が改善されて治療を終えてからも何らかの症状が続く、いわゆる後遺症に悩む人は多い。新型コロナでも2020年5月頃から後遺症が問題視され始めたが、日本の厚生労働省が出した手引によれば、新型コロナの後遺症は「3カ月ほどで約2/3は回復」するとしている。

 だが、新型コロナに感染した患者の8割以上が、何らかの後遺症に悩まされている(※1)。例えば、英国の研究では退院後の5カ月で10人中2.5人しか完全に回復せず、1年後でもほとんど病状の改善がみられないケースも多いという(※2)。

 後遺症の代表的な症状としては、倦怠感をはじめ、息切れ、味覚・嗅覚の障害、思考力や記憶への影響、脱毛、関節痛などがある。注意しなければならないのは、こうした新型コロナの後遺症が症状の軽かった人でも起きることだ(※3)。茨城県のアンケート調査によれば、無症状者や軽症者でも6割以上に後遺症の症状がみられたという。

生活習慣は後遺症に関係するか

 新型コロナの後遺症は大きな問題になりつつあるが、最近、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究グループが新型コロナに過去一回だけ感染した英国の成人1581人(無作為抽出ではない)を対象に、感染の前の月にどんな生活習慣をしていたのかを調べ、後遺症との関係を分析した研究が発表された(※4)。

 対象者に質問した生活習慣は、適度な定期的運動、新鮮な空気の呼吸、睡眠の質、飲酒(週14杯以上、1杯は約14グラムのアルコールが入っている酒)、メンタルヘルス受診、肥満度、そして喫煙だ。同研究グループは、これらの生活習慣と息切れ、思考力や記憶への影響、セルフケア(洗濯や入浴など)への影響といった後遺症(4週間以上)との関係を調べた。調査期間は2020年3月21日から同年8月まで、無作為抽出ではないため英国成人の性別、年齢、教育程度などによる重み付け分析を適用した。

喫煙者はセルフケアに支障が

 その結果、対象者の20.48%が後遺症を自己申告し、後遺症の患者の症状では認知困難が最も多く(62.58%)、次に移動困難(55.49%)となり、睡眠の質が悪いと後遺症リスクが約3.5倍(オッズ比:3.53、95%CI:2.01-6.21)に、発症前の1ヶ月にタバコを吸っていた喫煙者では日常生活に支障が出るセルフケア項目の後遺症が8倍以上(オッズ比:8.39、95%CI:1.86-37.91、P<0.01)だった(オッズ比はかかりやすさ、オッズ比が1だとかかりやすさは変わらない)。

 喫煙者の後遺症の症状としては、行動困難のリスクは低く(ハザード比:1.07)、認知困難のリスクは高かった(ハザード比:2.46)。ただ、喫煙とセルフケア項目の後遺症の信頼区間はかなり広く(95%CI:1.86-37.91)、これはサンプル中の喫煙者が少なかったためと考えられる(10.14%)。

 喫煙者はもともとセルフケアが困難なのかもしれないが、セルフケアについてこの研究では「洗濯したり入浴したりして自分自身を身ぎれいに清潔に保つこと」としている。だが、セルフケアの概念は漠然としており、対象者の自己申告という点に注意したい。

 この研究は、対象者の自己申告によるもので無作為抽出でもない。また、調査対象期間が2020年4月からと、新型コロナ・パンデミックの初期の頃なので、感染者の後遺症に対する認識も低かったと思われる。ただ、生活習慣、とりわけ喫煙と新型コロナの後遺症について調べた研究は少ないので、まだ感染する前なら少なくとも禁煙しておいたほうがいいだろう。

 もちろん、この記事は喫煙者への偏見を助長することを目的としたものではない。だが、喫煙は単一で多くの病気を引き起こす最大の要因だ。新型コロナでも喫煙は重症化や死亡のリスクを上げる(※5)。

 オミクロン株は無症状や軽症の患者が多いとされ、それが感染防止対策に対し、やや弛緩したムードを醸成した。だが、後遺症のことを考えれば感染者は少ないに越したことはない。

 新型コロナの後遺症では、筋力が低下する症状も出ることがあり、高所作業などで危険にさらされることも考えられる。後遺症が長く続く患者が増えれば、それが社会的なコストにもなっていく(※6)。

 倦怠感や疲労感、頭痛などの新型コロナの後遺症に苦しんでいる人は今後ますます増える。化学物質過敏症など原因不明の多くの病気や後遺症がそうだが、何らかの原因で生活の質が低下し、回復後も病欠や早退、退職などで社会生活を続けられない人に対し、気のせいやズル休みなどという非難めいた発言をしたり態度をとったりする人も少なくない(※7)。

 原因不明の病気や後遺症に対する偏見をなくし、社会全体で患者がもとの生活に復帰できるサポートをすると同時に、後遺症の相談窓口や治療できる受診先を増やすことも重要だろう。また、これまで通り、ワクチン接種、マスクの着用、手指衛生、ソーシャルディスタンス、3密の回避などの感染予防対策をしていく必要がある。


コロナ後遺症の行政の相談窓口など(2022/09/12アクセス)


※1:Sandra Lopez-Leon, et al., “More than 50 long-term effects of COVID-19: a systematic review and meta-analysis” scientific reports, 11, Article number: 16144, 9, August, 2021

※2:Ingrid Torjesen, “Covid-19: Long covid symptoms among hospital inpatients show little improvement after a year, data suggest” The BMJ, Vol.375, n3092, December, 15, 2021

※3:Sandra Lopez-Leon, et al., “More than 50 long-term effects of COVID-19: a systematic review and meta-analysis” scientific reports, Vol.11, 16144, August, 09, 2021

※4:Elise Paul, Daisy Fancourt, “Health behaviours the month prior to COVID-19 infection and the development of self-reported long COVID and specific long COVID symptoms: a longitudinal analysis of 1581 UK adults” BMC Public Health, Vol.22, 1716, 9, September, 2022

※5:Joshua Elliott, et al., “COVID-19 mortality in the UK Biobank cohort: revisiting and evaluating risk factors” European Journal of Epidemiology, Vol.36, 299-309, 15, February, 2021

※6:The Lancet, “Understanding long COVID: a modern medical challenge” THE LANCET, Vol.398(10302), 725, 26, August, 2021

※7-1:Ayman lqbal, et al., “The COVID-19 Sequelae: A Cross-Sectional Evaluation of Post-recovery Symptoms and the Need for Rehabilitation of COVID-19 Survivors” Cureus, Vol.13(2), e13080, 2021

※7-2:Michael J. Peluso, et al., “Persistence, Magnitude, and Patterns of Postacute Symptoms and Quality of Life Following Onset of SARS-CoV-2 Infection: Cohort Description and Approaches for Measurement” Open Forum Infectious Diseases, Vol.9, Issue2, December, 21, 2021