タバコを吸っていると早く「要介護」になる

 要介護になる要因として、フレイル(加齢によって心身が衰えた状態)、低栄養、認知機能低下、既往症などがあるが、喫煙も要介護に影響する。いわゆる「寝たきり」になって要介護になりたくなければ、喫煙者はなるべく早く禁煙したほうがいい。

平均寿命と健康寿命の差

 厚生労働省が定める要介護状態の定義は、身体または精神の障害があるため、入浴、排せつ、食事などの日常生活における基本的な動作の全部または一部について、厚生労働省令で定める期間(原則6カ月)にわたり継続して常時介護を要すると見込まれる状態のことだ。

 また、要介護者の定義は、要介護状態にある65歳以上の人、もしくは40歳以上65歳未満の人でも要介護状態の原因になっている障害が加齢によって変化する病気(がん、関節リウマチ、パーキンソン病関連疾患など)にかかっている人となっている。

 平均寿命とはその年に0歳の人の平均余命のことだが、1947(昭和22)年の平均寿命は男性で50.06年、女性で53.96年だったのが、2021(令和3)年には男性81.47年、女性87.57年と格段に伸びている。

 2021年に30歳だった人の平均余命は男性で52.09年(82歳)、女性で58.3年(88歳)、40歳だった人の平均余命は男性で42.40年(82歳)、女性で48.24年(88歳)だ。

 寿命は延びているが、日常生活が健康上の理由で制限されない期間、つまり健康寿命は2019(令和元)年だと男性で72.68年、女性で75.38年となっている。健康寿命の後、男性で8.73年、女性で12.06年、日常生活に制限が起きる、つまり要介護になったり寝たきり状態になったりする期間が生じることになる。

平均寿命と健康寿命の推移。厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」2021(令和3)年12月20日、第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会、資料3-1より
平均寿命と健康寿命の推移。厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」2021(令和3)年12月20日、第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会、資料3-1より

 では、なぜ要介護状態になるのだろうか。どうすれば健康寿命を延ばし、要介護状態になるのを遅らせることができるのだろうか。

 まず、その原因だ。要介護状態になる原因別では、65歳から69歳の場合、脳卒中などの脳血管疾患が4割を超え、次いで関節疾患、骨折・転倒、糖尿病、脊髄損傷、パーキンソン病などとなっている。これが80歳から84歳になると認知症が最も多く、次いで関節疾患、骨折・転倒、脳血管疾患などとなる。

要介護(要支援を含む)になった主な原因。厚生労働省、2019(令和元)年「国民生活基礎調査」より
要介護(要支援を含む)になった主な原因。厚生労働省、2019(令和元)年「国民生活基礎調査」より

喫煙は脳卒中のリスク因子

 群馬県草津町の2002年から2011年に高齢者健診を受診した65歳の男女1214人(女性694人)を対象にして、受診後平均8.1年を追跡した研究によれば、自立喪失(要介護状態372人と要介護状態前の死亡103人)の原因は、フレイル(加齢によって心身が衰えた状態、5項目基準のうち3項目以上)、プレフレイル(5項目基準のうち1項目か2項目)、認知機能低下、脳卒中既往、喫煙で1.3倍から2.2倍となった(※1)。特に男性と前期高齢者の場合、プレフレイルに次いで喫煙がリスク因子であり、死亡原因でも男性で喫煙が18%と高かったという(※2)。

 タバコを吸うと血管の内側が機能不全を起こして動脈硬化などが進み、大動脈瘤、冠動脈疾患といった心血管疾患のリスクを高め、脳の血流にも悪影響を及ぼして脳卒中のリスクや重症度を高め、結果として健康寿命を短くする。これは、本数を少なくしても、加熱式タバコのように有害物質が低減されたタバコ製品に切り替えても、さらに短時間の受動喫煙でも同じだ(※3)。

 つまり、喫煙は脳卒中などの脳血管疾患のリスクを高め、その結果、要介護状態になる危険性を高める。だが、喫煙者が禁煙すると、5年後の心血管疾患のリスクは非喫煙者と同じ程度になるとされ、ヘビースモーカーでも禁煙後10年から20年でリスクの有意差はなくなると考えられている(※4)。

喫煙は骨折や認知症のリスク因子

 喫煙と骨折の関係はどうだろう。コホート調査という集団を時系列分析した10研究を統合的にまとめ、比較した研究によれば、喫煙者は非喫煙者に比べて骨折するリスクは全体で1.25倍(リスク比)、股関節骨折では1.84倍(リスク比)となり、骨密度で調整してもほぼ同じ結果になった。また、過去喫煙者でも非喫煙者より骨折のリスクが高かったという(※5)。

 骨の中には、カルシウム、マグネシウム、リンなどのミネラル成分が含まれ、これらミネラル成分の量を骨量という。単位面積あたりの骨量のことを骨密度といい、骨量が少なくて骨密度が低ければ骨粗鬆症になる危険性がある。

 喫煙は、骨の新陳代謝に悪影響を及ぼす。これは受動喫煙でも同じで、タバコの煙によってホルモンの分泌などが変化し、その結果、骨量が低下すると考えられている(※6)。

 つまり、喫煙は骨折のリスクを高め、その結果、要介護状態になる危険性も高める。また、喫煙は認知症のリスクも高めるため(※7)、心血管疾患や脳血管疾患、骨折などの危険性が加わることになる。

 以上をまとめれば、喫煙は明らかに要介護や寝たきり状態になるリスクを高める。脳血管疾患、心血管疾患、骨折、認知症などの危険性が高まるからだ。

 だが、もしあなたが喫煙者なら、禁煙すれば健康寿命を延ばし、要介護状態になる危険性を低くすることが可能だ。喫煙者は、なるべく早く禁煙することをお勧めする。


※1:フレイルの基準。一般的に、体重減少(意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少)、疲れやすい(何をするのも面倒だと週に3日から4日以上感じる)、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下、の5項目を調べる。

※2:北村明彦ら、「高齢者の自立喪失に及ぼす生活習慣病、機能的健康の関連因子の影響:草津町研究」、日本公衆衛生雑誌、第67巻、第2号、2020

※3-1:Christopher Bullen, “Impact to tobacco smoking and smoking cessation on cardiovascular risk and disease” Expert Review of Cardiovascular Therapy, Vol.6, Issue6, 10, January, 2014

※3-2:Giuseppina Gallucci, et al., “Cardiovascular risk of smoking and benefits of smoking cessation” Journal of Thoracic Disease, Vol.12(7), 3866-3876, July, 2020

※4:Meredith S. Duncan, et al., “Association of Smoking Cessation With Subsequent Risk of Cardiovascular Disease” JAMA, Vol.322(7), 642-650, 20, August, 2019

※5:J A. Kanis, et al., “Smoking and fracture risk: a meta-analysis” Osteoporosis international, Vol.16, 155-162, 3, June, 2004

※6:Hhmad M. Al-Bashaireh, et al., “The Effect of Tobacco Smoking on Bone Mass: An Overview of Pathophysiologic Mechanisms” Journal of Osteoporosis, doi.org/10.1155/2018/1206235, 2018

※7:Matthew Baumgart, et al., “Summary of the evidence on modifiable risk factors for cognitive decline and dementia: A population-based perspective” Alzheimer’s & Dementia, Vol.11, Issue6, 718-726, June, 2015