気化させた「カフェイン」を吸引するタバコまがい製品の影響とは
最近、BREATHER(ブリーザー)という企業から、カフェイン(Caffeine)を吸うデバイスとカフェイン入りカートリッジが発売された。気化させたカフェインを吸う製品だが、健康への悪影響はないのだろうか。
ヘロインとの親和性
依存性薬物であるカフェインは、その薬効をうたえば医薬品と処方され(日本薬局方)、同時に薬効をうたわなければ食品添加物として使うことができる。だが、世界的にカフェインを添加したエナジードリンクが問題視され、未成年者への販売が規制対象になっている地域もある(※1)。
そのため、厚生労働省や農林水産省は、カフェインの過剰摂取に注意を喚起し、食品安全委員会も食品中のカフェインについて情報提供を行っている。従来と異なる方法、アルコールと一緒の摂取、多量の摂取には、特に注意して欲しいとうったえている(※2)。
カフェインはヘロイン(Heroin)と親和性が高い。健康へ悪影響を及ぼす違法薬物で依存性の高いヘロインは、アルミホイルなどにヘロインとカフェインの混合物を入れ、下から加熱して気化させた煙を吸い込む、いわゆるChasing the Dragon(龍を追いかける)という吸入法で摂取することが多いが、カフェインを混ぜるのは気化させたことで吸引効率が高くなるからだ(※3)。
このようにカフェインは、気化させて肺に吸い込むという方法で古くから違法薬物と結びついていた。また、欧米ではヘロインに医薬用の吸入薬としての役割もあり、気化させるためにカフェインが加えられているが、こうした気体を肺に吸い込むことによる生体への影響も研究されている(※4)。
カフェインを気化させ、電子タバコのリキッドに添加して喫煙する技術は、2001年に米国で特許が出願され(※5)、電子タバコが流行した欧米ではコーヒー風味などのリキッドにカフェインが添加されるようになっている(※6)。
最近では、カフェインを電子タバコ様の機器で吸引させる実験を行い、脳への影響を評価した日本の研究もある(※7)。つまり、今回のカフェイン吸入製品は、特に目新しいものではない陳腐なアイディアだ。
吸い込んだ場合の危険性は
食べたり飲んだりした場合のカフェインの有害性については、これまで多くの研究がある(※8)。だが、前述したように、気化させたカフェインを肺に吸い込んだ場合の生体への悪影響も研究されてきたが数はかなり少ない。
ヘロインの吸引効率を高めるため、融点が低く揮発性の高いカフェインが利用されてきたように、薬物が脳へ急激に到達すると依存性が増すことが知られている。
これはニコチンも同じだ。ニコチンはタバコ製品によって肺胞から血液へ入り、約10秒で脳へ到達する(※9)。ニコチンパッチやニコチンガムの依存性が低いのは、その到達時間が緩やかだからだ。
コーヒーとタバコの親和性が高いように、カフェインとニコチンは世界で最も一般的に消費されている依存性薬物だ。喫煙者の86%以上がカフェインを摂取しているのに比べ、タバコを吸わない人ではそれが77%になる(※10)。
以上のことを踏まえ、カフェインを気化させて吸い込むという今回の製品について考えれば、喫煙や違法薬物のゲートウェイ、つまりその使用によってタバコやヘロインなどに手を出すようになる危険性が高い製品ということになるだろう。さらに、カフェインを肺に吸い込んだ場合の依存性や健康への悪影響はまだはっきりわかっていないのだ。
※1-1:Chad J. Reissig, et al., “Caffeinated energy drinks- A growing problem.” Drug and Alcohol Dependence, Vol.99, Issue1-3, 1-10, 2009
※1-2:上條吉人「救急医療におけるカフェイン乱用の現状」精神科治療学、第32巻、第1号、2017
※2:内閣府食品安全委員会事務局「食品安全の基本とカフェインの安全性について」2018
※3-1:Henk Huizer, “Analytical studies on illicit heroin.” Pharmaceutisch Weekblad Scientific Edition, Vol.9, 1987
※3-2:Marjolein G. Klous, et al., “Pharmacokinetic comparison of two methods of heroin smoking:’chasing the dragon’ versus the use of a heating device.” European Neuropsychopharmacology, Vol.15, 263-269, 2005
※4-1:Marjolein G. Klous, et al., “Analysis of Diacetylmorphine, Caffeine, and Degradation Products after Volatilization of Pharmaceutical Heroin for Inhalation.” Analytical Toxicology, Vol.30, Issue1, 6-13, 2006
※4-2:Martin Galvalisi, et al., “Caffeine Induces a Stimulant Effect and Increases Dopamine Release in the Nucleus Accumbens Shell Through the Pulmonary Inhalation Route of Administration in Rats.” Neurotoxicity Research, Vol.31, Issue1, 90-98, 2017
※5:Joshua D. Rabinowitz, “Delivery of Caffeine through an Inhalation Route.” US Pa2010tent, US7078016, 2006
※6-1:Joseph G. Lisko, et al., “Caffeine Concentrations in Coffee, Tea, Chocolate, and Energy Drink Flavored E-liquids.” Nicotine & Tobacco Research, Vol.19, Issue4, 484-492, 2017
※6-2:Christine D. Czoli, et al., “Identification of flavouring chemicals and potential toxicants in e-cigarette products in Ontario, Canada.” Canadian Journal of Public Health, Vol.110, Issue5, 542-550, 2019
※7:Kazutaka Ueda, Masayuki Nakao, “Effects of Transpulmonary Administration of Caffeine on Brain Activity in Health Men.” brain sciences, Vol.9(9), 222, 2019
※8-1:Roland R. Griffiths, Phillip P. Woodson, “Caffeine physical dependence: a review of human and laboratory animal studies.” Psychopharmacology, Vol.94, Issue4. 437-451, 1988
※8-2:Laura M. Juliano, Roland R. Griffiths, “A critical review of caffeine withdrawal: empirical validation of symptoms and signs, incidence, severity, and associated features.” Psychopharmacology, Vol.176, Issue1, 1-29, 2004
※8-3:P Nawrot, et al., “Effects of caffeine on human health.” Food Addiction & Contaminants, Vol.20:1, 1-30, 2010
※9:Janne Hukkanen, et al., “Metabolism and Disposition Kinetics of Nicotine.” Pharmacological Reviews, Vol.57(1), 79-115, 2005
※10-1:J A. Swanson, et al., “Caffeine and nicotine: a review of their joint use and possible interactive effects in tobacco withdrawal.” Addictive Behaviors, Vol.19, Issue3, 229-25, 1994
※10-2:Shoshana Zevin, Neal L. Benowitz, “Drug Interactions with Tobacco Smoking.” Clinical Pharmacokinetics, Vol.36, Issue6, 425-438, 1999