新型コロナ感染症:日本政府は「JT株」売却益「1兆3000億円」を支援に充てよ:COVID-19:The Japanese government should pay “1.3 trillion yen” in profits from the sale of JT stock to pay for COVID-19 measures.

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)の流行拡大が止まらない。政府は一部の都道府県に対して緊急事態宣言を発し、日常生活や経済活動の自粛を要請しているが、経済的困窮者や事業継続が困難になる企業が増えている。支援財源にJT(日本たばこ産業)株を売却して充てたらどうだろうか(この記事は2020/04/13の情報に基づいて書いています)。

日本政府はJT株を1/3以上保有

 JT法という法律がある。この法律により、日本政府(財務大臣)はJT株を33.35%保持している(※1)。この法律により、JTは財務大臣の認可なくタバコ事業以外の事業を営むことはできないことになっている(第5条の2)。また、取締役や執行役、監査役の選任や解任(第7条)、定款の変更(第8条)、年度ごとの事業計画(第9条)など、ことごとく財務大臣の認可が必要だ。

 一方、政府は2011年12月2日に「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」を交付しているが、その中には政府が保有するJT株について、2022年度まで復興財源に充てる収入を確保するためにJT株の処分の可能性を検討するとなっている。

 その後、2013年3月11日、財務省は「日本たばこ産業株式会社株式の売出価格及び売出株数の決定について」という通知を出した。政府(財務大臣)保有のJT株はそれまでの1/2以上から1/3超ということになり、政府は約9734億円の売却益を得ることができ、この金は復興債の償還に充填している。

 ところが、2015年6月22日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の中間報告を受け、政府は震災復興財源として売却を検討していたJT株の追加売却を見送ることを決めた。この中間報告では、JTの完全民営化の方針は堅持すべきとしているが、現在まで政府保有のJT株は1/3超(33.35%)という法律ギリギリの状態が続いている。

 これ以上、政府がJT株を売却するためには、JT法という法律の改正が必要だ。政府内や国会議員には、JTを完全民営化すべしという意見も多い。

 ほかの旧三公社は国鉄が完全分割民営化し、電電公社は東西NTT(持ち株会社化、分社化、政府保有株約30%)へとほぼ民営化したのに比べ、JTは依然として半官半民の中途半端な組織(特殊会社)のままだからだ。

 だが、タバコ利権においてJT(財)は、財務省(官)と旧大蔵省財務省OB議員などのタバコ族議員(政)、そして研究助成を受ける研究者ら(学)を結びつける役割を担っている。現在のJTの会長(2014年6月から)は、元大蔵官僚の丹呉泰健氏で、2014年4まで内閣官房参与になっているなど現政権にも近い。

新型コロナ対策に売却益を充てよ

 財務省にとってJTは様々な意味で重要な金城湯池になっている。会長を送り込んでいるように天下り先でもあり、株式保有により年間700~1000億円にもなる配当金は国会での審議を経て決定される一般会計ではない財政投融資特別会計として、ほぼフリーハンドに使えるからだ。各省庁は特別会計などの予算を背景にした財務省に頭が上がらないし、旧大蔵省・財務省出身議員の政治力の源泉にもなっている。

 タバコ規制が強まる環境下、JTにとって財務省の傘の下にいるのは都合がいい。反面、経営の自立という観点から、内部には完全民営化を懇願している社員もいるようだ。

 いずれにせよ、タバコ、特に紙巻きタバコは、大量生産大量消費という20世紀型の産業構造で象徴的な商品だった。だが、21世紀に入って多様化の時代が到来して市民社会が成熟し、健康志向や自然環境保全への意識が高まった結果、少なくとも先進国で喫煙はすでにオワコンだ。

 JTのタバコ事業で海外の営業利益のほうが国内よりも多くなっているように、世界のタバコ企業は自国内から発展途上国の市場へ目を向けるようになっている。その一方、先進国では加熱式タバコなどの新型タバコを市場へ投入し、消費者や行政当局の議論を混乱させ、延命を図ろうとしている。

 だが、加熱式タバコのニコチン量は、紙巻きタバコよりやや少なく、ニコチン依存になった喫煙者にはモノ足りない。だから、完全に加熱式タバコへ移行することはできず、いわゆるデュラル・ユーザーが残ることになる。このニコチン量は、タバコ会社がこれまで蓄積してきた研究の成果だろう。

 つまり、タバコ会社は紙巻きタバコから徹底するようなことは全く考えていないのだ。JTを含むタバコ会社が、消費者や市民の健康のことを考慮して企業活動する可能性はない。

 先日の国会答弁で安倍晋三首相は、喫煙が新型コロナ感染症の感染や重篤化のリスクを高めると発言したが、こうした考えを持つ企業の株式を政府が1/3以上保有しているのは、政府が国民の生命や健康のことなど考えていないということに他ならない。

 現在のJTの株式の時価総額は約3兆9800億円だ。その1/3は約1兆3000億円となる。政府が新型コロナ感染症対策に本気で取り組むというのなら、JT株を全て売却し、それを自粛要請などで疲弊する人や企業、最前線で立ち向かう医療関係者への支援に充てるべきではないだろうか。

※1:JT「有価証券報告書