タバコを吸う人は「見た目で3割」損をする:Smokers lose 30% of what they look like.

 タバコを吸う人は、いわゆる「老け顔」になりやすい。これを「タバコ顔、スモーカーフェイス(Smokerface)」と言うが、喫煙の悪影響は見た目にもあらわれる。

 米国オハイオ州で186組の双子を対象にした調査では、それぞれの顔写真が撮影され、生活習慣などの違いと容貌の違いを比較した。その違いは喫煙の有無で最大の影響を発揮し、日焼けの頻度、皮膚がんの病歴なども影響する、という結果になった(※1)。その後、このデータをもとにして、双子の片方が喫煙者、禁煙成功者という分析で詳細な研究がなされ、喫煙者のほうが以下の点で非喫煙者の双子の片方よりも特徴的だとされた(※2)。

・ 上まぶたの垂れ下がり

・ 目の下の涙袋のたるみ

・ 頬の皮膚のゆるみ

・ 法令線のしわ

・ 唇の色としわ

 双子の喫煙者と非喫煙者を比較したこの研究では、喫煙者の顔の約1/3に老化の影響があらわれた、としている。5年の喫煙歴で、双子の顔に大きな違いが出たのだという。写真を比べれば一目瞭然だが、皮膚のたるみやゆるみもさることながら、肌の色が全体的に黒ずんで不健康だ。

双子(52歳の女性)を調べたタバコ顔の違い。どちらが喫煙者かわかるだろうか。一方は20年間もタバコを長く吸ってきた女性。同じ遺伝子なのにタバコを吸うか吸わないかで印象が異なる。もちろん紫外線や生活習慣、体重変化などタバコ以外の要因もあるが、喫煙者は左だ。喫煙者の見た目の年齢差は「-6.25歳」とされる。via. B Guyuron, et al., “Factors contributing to the facial aging of identical twins.” Plastic and Reconstructive Surgery. 123(4):1321-31, APR 2009.

血行が悪くなりビタミンCが破壊される

 このタバコ顔について、美容皮膚科の菅原由香子医師に聞いてみた。

──タバコのいったい何が見た目に影響しているのか。

菅原「タバコの主成分はニコチンですが、ニコチンは血管を収縮させ、血行を悪くします。血流が悪くなれば皮膚の新陳代謝が悪くなり、たるみや張りが失われますね。また、タバコを吸うと多くのビタミンCが破壊されることがわかっています。1本の喫煙で25mgから100mgものビタミンCが失われることになるんです」

──ビタミンCが破壊されるとどうなるのか。

菅原「ビタミンCにはメラニン色素ができるのを防ぐ作用とコラーゲン生成を助ける作用があります。ビタミンCが不足すれば、シミやソバカスが多くなり、皮膚の張りが失われたり、しわができやすくなるんです」

──タバコの害はほかにもあるか。

菅原「タバコを吸うと活性酸素が発生し、皮膚のトラブルを引き起こしますし、遺伝子を傷つけることもあるため、がんになるリスクが高まります」

──受動喫煙の影響はどうか。

菅原「もちろん、受動喫煙も要注意です。他人のタバコの煙、副流煙にはタバコを吸う人が吸い込む主流煙よりも有害な物質が多く含まれることがわかっています。ニコチンは約2.8倍、タール3.4倍、一酸化炭素が4.7倍も多いんです。受動喫煙でお肌に悪影響が出る可能性はけっして低くありません。他人が吸ったタバコで肌が黒ずんだりしたら本当に迷惑ですね」

菅原由香子(すがわらゆかこ) 北海道旭川市生まれ。弘前大学医学部を卒業後、札幌医科大学皮膚科、大手美容外科美容皮膚科部門勤務を経て、岩手県一関市に夫とともに「すがわら皮膚科クリニック」を開業。お肌のトラブルに悩む患者さんに寄り添い、化粧品などに含まれる化学物質の危険性に警鐘を鳴らしている。著書に『肌のきれいな人がやっていること、いないこと』(あさ出版)がある。

喫煙はアンチエイジングの大敵

 こうした老化があらわれたタバコ顔には、禁煙効果があるのだろうか。タバコ顔になりたくない、という動機で喫煙者が禁煙するかどうか、調べた研究がいくつかある。

 14歳から18歳までの若い女性853人を対象にして顔写真を撮影し、ソフトウエアで喫煙による老化画像処理をほどこして反応を調査した研究によると喫煙者の24%が禁煙を決断した(※3)。ただ、この研究論文では、喫煙の老化画像は禁煙の動機づけに利用できる可能性が有望だが、対象が喫煙を開始するのには若過ぎる年齢層だったため効果は不十分だった、としている。

 また、ドイツの126の中学校で行われた平均年齢12歳の9851人の生徒を対象にしたランダム化比較試験では、喫煙による老化現象を示したスマートフォンの無料アプリを使い、教室にアプリの宣伝ポスターを掲示した。このポスターは、17歳くらいの男女の顔写真が並べられ、顔の左右半分ずつを非喫煙顔と喫煙顔に分けたものだ。

 この調査研究では、喫煙の有無を生徒と保護者の同意を前提にした唾液サンプルに負っていたため、はっきりとした禁煙への動機づけ効果は得られなかった。ただ、費用が安く生徒の多くが使うスマホを利用した方法なので、青少年の喫煙に関する疫学データを得やすい、と言っている(※4)。

ドイツの中学生に見せたスマホアプリのポスター。17歳くらいの若い男女の顔写真が、喫煙顔に分けられている。via. T Brinker, et al., “Photoaging smartphone app promoting poster campaign to reduce smoking prevalence in secondary schools: the Smokerface Randomized Trial: design and baseline characteristics.” Vol.6 Issue11, BMJ, 2016.

 以上のように、タバコを吸うと外見が老化する。双子の比較調査で1/3の顔に影響が出た。また、タバコ顔に見て禁煙を決めた若い女性が24%いた。ということは、ざっとタバコで見た目が3割ほど悪くなる、ということになる。

 タバコを吸うと白髪になったり脱毛が起きたりする割合が増える、という研究もある(※5)。また、目尻のしわ、いわゆる「烏の足跡」が増える、という研究もある。もちろん、歯にはヤニがこびりついて茶色くなるし、口臭も臭い。

 喫煙はまさにアンチエイジングの大敵だ。早めに禁煙するに越したことはない。


※1:B Guyuron, et al., “Factors contributing to the facial aging of identical twins.” Plastic and Reconstructive Surgery. 123(4):1321-31, APR 2009.

※2:O HC, et al., “Facial changes caused by smoking: a comparison between smoking and nonsmoking identical twins.” Plast Reconsir Surg. 132(5): 1085-92, 2013.

※3:C Weiss, et al., “Aging Images as a Motivational Trigger for Smoking Cessation in Young Women.” Public Health, 7(9), 2010.

※4:T Brinker, et al., “Photoaging smartphone app promoting poster campaign to reduce smoking prevalence in secondary schools: the Smokerface Randomized Trial: design and baseline characteristics.” Vol.6 Issue11, BMJ, 2016.

※5:J Mosley, et al., “Premature grey hair and hair loss among smokers: a new opportunity for health education?” BMJ, 1996.