新型コロナに負けない「心と身体」をどう作るのか~「シニア世代」編:How to build a “mind and body” that don’t be defeated by the new Corona – “Elderly generation” version.

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)の感染が全国的に広がりをみせ、「第三波」の感染拡大を迎えようとしている中、年末年始を挟んだ長期戦の様相を呈してきている。寒くて引きこもりがちになる季節だが、どうすれば新型コロナに負けない心身を保つことができるのだろうか。

新型コロナに脆弱なシニア世代

 治療や地域の場でヘルスプロモーション(※1)を推進する公益社団法人地域医療振興協会のヘルスプロモーション研究センターは、2020年の夏季から「コロナに負けない! 新型コロナ長期戦に向けた心と体づくり」の啓発活動を始めている。

 活動の主な対象は、感染対策に注意しつつ、社会活動に従事せざるを得ない働く世代と重症化リスクが大きく社会活動が減退しがちなシニア(高齢者)世代で啓発のためのポスターや動画を作ってPRしてきた。

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シニア(高齢者)世代がコロナに負けない心と身体を作るにはどうしたらいいのだろうか。QRコード(四角い白黒のモザイク模様の枠)をスマホで読み取ると同協会の動画に飛ぶ。地域医療振興協会のヘルスプロモーション研究センターが作成したホームページより。

 同協会の中村正和氏によると、新型コロナの影響で外出を自粛しがちになり、特に高齢者では外出や他者との会話が減少し、認知機能や身体機能の低下リスクが増えることが懸念されているようだ(※2)。この記事では、同協会の動画の資料をもとに、働く世代とシニア(高齢者)世代の新型コロナに負けない心と身体づくりを前後編に分けて紹介したい。シニア(高齢者)世代の動画の内容については以下の項目になる(働く世代はこちら)。

・運動(とにかく身体を動かす)

座っている時間を減らす(テレビを見ながら足踏みしたり、室内の掃除を)

毎日、筋トレとストレッチを(椅子を使った筋トレ、ラジオ体操などを)

三密を避けて日中に散歩を(日光にあたることで筋肉や骨が強く)

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高齢者の自粛が続くと運動不足になりがちだ。簡単な運動を習慣づけよう。適度な運動は良質の睡眠をとることにもつながる。地域医療振興協会のヘルスプロモーション研究センターが作成した動画より。

・食事(1日3食しっかり食べる)

しっかり食べて低栄養を予防(いろいろな食品をまんべんなく)

毎食タンパク質のおかずを(肉・魚・卵・大豆製品・牛乳・乳製品を毎食1品)

ビタミンDの多い食事と日光浴(魚やキノコ類などに多く含まれるビタミンD)

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買い物難民やフードデザートの問題が、コロナ禍で大きくクローズアップされてきている。シニア世代は低栄養にならないようにしたい。地域医療振興協会のヘルスプロモーション研究センターが作成した動画より。

・口腔ケア(お口のお手入れ)

食事の前に「お口の体操」(「う~あ~べ~」と大きく口や舌を動かすと唾液の分泌が良くなる)

毎食ごと寝る前に歯磨き(口腔内を清潔にすることで誤嚥性肺炎の予防に)

水分補給もお口のお手入れ(こまめな水分補給は感染症や脱水症の予防に)

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高齢者に多い誤嚥性肺炎は、お口の中の細菌が誤嚥した唾液や飲食物と一緒に入り、肺に感染して起きることも多い。これも口腔ケアで予防できる病気だ。地域医療振興協会のヘルスプロモーション研究センターが作成した動画より。

・心の健康(心は「密」に)

人とのつながりを大切に(1日1回は家族や友だちと電話やメールを)

心のリフレッシュを(外に出て日光を浴びてリフレッシュ、生活リズムを整える)

困ったときは助け合い(お互いに声を掛け合い助け合う)

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家族や隣人、地域、コミュニティでの人間関係は、高齢者の健康にとってとても重要だ。シニア世代が孤立したり孤独にならないよう周囲も気をつけたい。地域医療振興協会のヘルスプロモーション研究センターが作成した動画より。

青森県の村で行われた健康チャレンジ

 ところで同協会では、2020年9月にこの啓発活動のポスターを活用し、青森県下北郡東通村で「村民健康チャレンジ」という企画イベントを行ったという。

 同協会の中村氏によると、青森県が短命県という汚名を返上するきっかけにしたいということで、東通村で2019年からモデル的な取り組みを行ってきており、主な目的は生活習慣病やフレイル(身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)の予防、要介護状態の悪化防止だそうだ。今回の企画イベントは、コロナに負けないための啓発活動として、モデル的な取り組みの一環として行った。

 この企画は、コロナ禍における村民の生きがいや魅力ある村作りにつながる自主的なヘルスプロモーションだ。人口約6000人の村で319名が参加し、イベント終了後に224名がチャレンジの結果を提出した(回収率70.2%)。

 生活習慣を健康的に変えるよう村民が自ら宣言した行動変容の実施率も、21日以上が半数以上、30日間パーフェクトの実施者も75名いたという。今後は、この村民チャレンジへ参加の有無と住民健診のデータを比較分析する。

 能舞などの伝統芸能の盛んな同村は、下北半島のむつ市に隣接した自然が豊かで美味しい食べ物が豊富な太平洋岸の村だが、冬季はかなり寒くなる(1月の平均気温マイナス1.1℃)。

 同協会の中村氏は、冬季には身体活動量が減少して、体重の増加やメタボの悪化、飲酒量の増加などの危険があるという。これは新型コロナの影響も同じで、外出や交流の減少にともなう認知機能の低下やフレイルの悪化などを心配している。

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青森県東通村の「村民健康チャレンジ」で行われたクイズ。同協会のポスターを見てから答えれば100点満点間違いなし? 地域医療振興協会のヘルスプロモーション研究センターが作成した資料より。

 寒い地域に限らず、気温や湿度が下がって感染症にかかりやすい季節になってきた。マスクの着用・手指衛生・三密の回避・換気などの感染予防対策を十分にとって感染しないように注意しつつ「正しく恐れる」生活を続けることも重要だ。

 これから冬に向かい、新型コロナのほかインフルエンザなどの季節性感染症の流行にも備えなければならない。働く世代もシニア世代も心身ともに健康状態を保ち、免疫機能を落とさないような生活習慣を心がけていきたい。

※1:ヘルスプロモーション:世界の人の健康のためにWHO(世界保健機関)が策定したオタワ憲章(1986年)の中で提唱された健康戦略。「人々が健康とその決定要因を自らコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義され、「全ての人々が、労働・学習・余暇・愛の場といったあらゆる生活の場で健康を享受できる公正な社会の創造」を目的としている。

※2:Smart Wellness City首長研究会、日本老年学的評価研究機構、東京大学高齢社会総合研究機構:Withコロナによる健康二次被害を社会参加やスポーツで予防し国民を“健幸”にするための緊急提言