「歯周病」が「心房細動」の原因に?:広島大学が研究成果発表

 口の中を清潔にすることは、病気予防や老化を遅らせるために重要だ。特に歯周病(歯周炎)は、誤嚥性肺炎、糖尿病、認知症などの病気を引き起こす。今回、広島大学の研究グループが、歯周病と心房細動という心臓の病気に関係があるのではないかという研究成果を発表した。

多くの病気を引き起こす歯周病

 歯周病というのは、歯と歯肉の間に細菌が繁殖してそれが慢性的な炎症を起こし、歯を支えている部分(歯周組織)を破壊する病気だ。日本の成人の約80%が歯周病にかかっていると考えられ、生活習慣病の一種とされている。また、喫煙者は歯周病になりやすく、日本歯周病学会は歯周病予防の観点から禁煙を推奨している。

 歯周病は歯を失うリスクがあるだけではなく、歯周病の病原菌によって誤嚥性肺炎になってしまったり、歯周病の炎症反応で作られるタンパク質(炎症性サイトカイン)が原因となって、糖尿病、心血管疾患、がん(疑い)、アルツハイマー型認知症、新型コロナウイルス感染症など他の多くの病気になるリスクが高くなる(※1)。

 この中の心血管疾患では、心筋梗塞、動脈硬化症、腹部大動脈瘤、高血圧症といった心臓や血管の病気と歯周病との関係が疑われ、やはり炎症反応によるタンパク質が影響しているのではないかと考えられてきた(※2)。

 最近、広島大学の研究グループが、歯周病と心疾患の不整脈の一種である心房細動との関連を明らかにし、学術誌に発表した(※3)。同研究グループは、76名の患者さんを対象にし、心臓手術の際に脳梗塞を予防するために切除した心臓の左心房の一部、左心耳という部位を調べ、手術前に検査した歯周病との関係を分析したという。

 よく心電図を取るなどというが、心臓の筋肉は電気信号によって規則正しく拍動(心拍)している。この電気信号は心臓の中にある洞結節という器官で発生しているが、この電気信号が乱れると、心臓の心房という部屋が細かくけいれんすることがある。これが心房細動という不整脈の病気で、心房細動によって心臓の中の血液に固まり(血栓)が生じやすくなり、この固まりが脳へ至ると脳梗塞などになりかねない。

 血液の流れは、肺で酸素を受け取り心臓の左心房や左心室に入ってきて再び全身に送られる。同研究グループが注目した左心耳というのは、まず肺から送られてきた血液が入る左心房に付属する、いわば袋状になった盲腸のようなもので、心房細動の患者さんで脳梗塞を起こす原因の約90%がこの左心耳で生じた血液の固まりによるものとされている。

歯周病と心房細動の関係とは

 同研究グループは、この左心耳の線維化を定量化したという。細胞組織の線維化というのは、ストレス、炎症反応、加齢などにより、臓器の結合組織が異常に増殖したりコラーゲンに置き換わって蓄積することで、心臓の筋肉が線維化すると心不全や不整脈、そして心房細動などの心疾患を起こすことが知られている。

 前述したように、歯周病によって引き起こされる慢性的な炎症反応は心臓の組織に炎症反応によるタンパク質(炎症性サイトカイン)を分泌させるが、これも線維化の原因になったり、線維化が進む原因となる。同研究グループは、左心耳の線維化を定量化し、歯周病の炎症の面積の数値と比較し、その相関を調べたという。

歯周病の炎症の面積と定量化した左心耳の線維化の関連グラフ。炎症の面積が大きくなればなるほど、左心耳の線維化の割合が増えていることがわかる。広島大学のプレスリリースより
歯周病の炎症の面積と定量化した左心耳の線維化の関連グラフ。炎症の面積が大きくなればなるほど、左心耳の線維化の割合が増えていることがわかる。広島大学のプレスリリースより

 その結果、歯周病による炎症と左心耳の線維化に何らかの関連があることがわかったという。同研究グループは、今後この因果関係をより明らかにし、歯周病の予防や治療が心房細動や脳梗塞のリスクやその回復に影響する可能性のあることを示したいとしている。


※1-1:Elsa Maria Cardoso, et al., “Chronic periodontitis, inflammatory cytokines, and interrelationship with other chronic diseases” Postgraduate Medicine, Vol.130, Issue1, 98-104, 8, November, 2017

※1-2:Daniela Liccardo, et al., “Periodontal Disease: A Risk Factor for Diabetes and Cardiovascular Disease” International Journal of Molecular Sciences, Vol.20(6), 1414, 20, March, 2019

※1-3:Issac Suzart Gomes-Filho, et al., “Periodontitis and respiratory diseases: A systematic review with meta-analysis” ORAL DISEASES, Vol.26, Issue2, 439-446, 12, November, 2019

※1-4:Mario Dioguardi, et al., “The Role of Periodontitis and Periodontal Bacteria in the Onset and Progression of Alzheimer’s Disease: A Systematic Review” Journal of Clinical Medicine, Vol.9(2), 495, 11, February, 2020

※1-5:Ngozi Nwizu, et al., “Periodontal disease and cancer: Epidemiologic studies and possible mechanisms” Periodontology 2000, Vol.83, Issue1, 213-233, 8, May, 2020

※1-6:Pradeep S. Anand, et al., “A case-control study on the association between periodontitis and coronavirus disease (COVID-19)” JOURNAL OF Periodontology, Vol.93, Issue4, 584-590, 4, August, 2021

※2-1:James Beck, et al., “Periodontal Disease and Cardiovascular Diesease” JOUNRAL OF Periodontology, Vol.67, Issue105, 1123-1137, 1, October, 1996

※2-2:Peter Riis Hnasen, Palle Holmstrup, “Cardiovascular Diseases and Periodontitis” Periodontitis, 261-280, DOI: 10.1007/978-3-030-96881-6_14, 26, May, 2022

※3:Shunsuke Miyauchi, et al., “Relationship Between Periodontitis and Atrial Fibrosis in Atrial Fibrillation: Histological Evaluation of Left Atrial Appendages” JACC: Clinical Electrophysiology, Vol.9, Issue1, 43-53, January, 2023