マスク着用で「喫煙者」は一酸化炭素とニコチンの再吸入に要注意 : 加熱式も

 タバコを吸うと呼気にニコチンと一酸化炭素が含まれる。マスクをする喫煙者は呼気を再吸入するリスクがあり、非喫煙者より悪影響が多く出やすくなる。その影響について考える(この記事は2022/11/24時点の情報に基づいて書いています)。

喫煙者はマスクで動脈硬化のリスク

 ヒトの呼気(吐き出す息)の成分には、酸素、二酸化炭素、アセトン(脂肪代謝によってできる物質)、一酸化炭素(0から7ppm)などがある。タバコの煙には一酸化炭素が含まれているが、喫煙者の呼気では非喫煙者の2倍から数倍以上の一酸化炭素が排出される。

 一酸化炭素は、赤血球の中のヘモグロビンと強く結合し、血液が酸素を運びにくくなり、その濃度が高ければ酸欠状態になる。また、喫煙による一酸化炭素は心血管疾患の原因になるリスクも指摘されている(※1)。

 タバコにはニコチンも含まれ、ニコチンは強い依存性を持ち、血管収縮作用と代謝物に発がん性があり、喫煙者の呼気からはニコチンも出ている。一酸化炭素と同様、ニコチンもまた心血管疾患の原因になる(※2)。

 新型コロナのパンデミックも3年目に入ろうとしているが、わずらわしいマスク生活も長い。この記事ではマスク着用問題には触れないが、マスクは明らかに感染拡大を防ぐ効果がある(※3)。

 一方、マスクをしていると、自分が吐き出した息を再び吸い込むことになる。トルコの研究グループが、長時間、マスクを着用する医療従事者の呼気を分析したところ、着用して時間が経つにつれて血中酸素濃度の減少と呼吸数の増加がみられ、喫煙者で呼吸数の増加は非喫煙者より多かったという(※4)。

 また、ギリシャのアテネ大学の研究グループが、紙巻きタバコの喫煙者、加熱式タバコ(新型タバコ)の喫煙者、非喫煙者に対し、マスクをつけない場合、マスクをつけた場合、それぞれの呼気中の一酸化炭素濃度と大動脈の弾力性を比べたところ、マスクをつけた喫煙者(紙巻きタバコ、加熱式タバコ)は、喫煙した8時間後に一酸化炭素の値が上がり、大動脈の弾力性が落ちた(※5)。

グラフの左端が開始(ベースライン)で、マスクを着用しない8時間後、マスクを着用して8時間後の非喫煙者、加熱式タバコ、紙巻きタバコのPWVを比較した。Via:Ignatios Ikonomidis, et al., “The effect of smoking on exhaled carbon monoxide and arterial elasticity during prolonged surgical mask use in the COVID-19 era” European Journal of Preventive Cardiology, 2022のグラフを筆者が改編した
グラフの左端が開始(ベースライン)で、マスクを着用しない8時間後、マスクを着用して8時間後の非喫煙者、加熱式タバコ、紙巻きタバコのPWVを比較した。Via:Ignatios Ikonomidis, et al., “The effect of smoking on exhaled carbon monoxide and arterial elasticity during prolonged surgical mask use in the COVID-19 era” European Journal of Preventive Cardiology, 2022のグラフを筆者が改編した

 この論文では、大動脈の固さの指標である脈波伝播速度(PWV、心臓から動脈を伝わる脈の速度を測定する)を調べている。波のように動脈内を伝わる脈は、動脈が固いほど早く伝わり、柔らかいほど速度が遅くなるからだ。

 非喫煙者でマスクをつけたことによる悪影響はなかったが、加熱式タバコの喫煙者を含めた喫煙者がマスクをつけると自らの呼気に含まれる一酸化炭素とニコチンを再吸入し、血管に悪影響を及ぼすことがわかったという。加熱式タバコの喫煙者の呼気に含まれる一酸化炭素の濃度はそれほど高くないが、おそらく紙巻きタバコと同等と考えられる呼気中のニコチンを再吸入した結果、悪影響が出ているのだろう。

 マスク生活はまだ続く。喫煙は新型コロナの重症化や死亡リスクを高める(※6)。加熱式タバコの喫煙者を含む喫煙者は、なるべく早く禁煙したほうがいいだろう。


※1:Shoshana Zevin, et al., “Cardiovascular effects of carbon monoxide and cigarette smoking” Journal of the American College of Cardiology, Vol.38, No.6, 1633-1638, November, 2001

※2:George Papathanasiou, et al., “Effects of smoking on Cardiovascular function: the role of nicotine and carbon monoxide” Health Science Journal, Vol.8, Issue2, 2014

※3:Jeremy Howard, et al., “An evidence review of face masks against COVID-19” PNAS, Vol.118(4), e2014564118, 11, January, 2021

※4:Hasan Sultanoglu, et al., “Examination of Physiological Changes Seen in Workers Using Breathing Masks During COVID-19 Pandemic” Hospital Practices and Research, Vol.6(3), 93-97, 30, August, 2021

※5:Ignatios Ikonomidis, et al., “The effect of smoking on exhaled carbon monoxide and arterial elasticity during prolonged surgical mask use in the COVID-19 era” European Journal of Preventive Cardiology, doi: 10.1093/eurjpc/zwac101, 7, July, 2022

※6:Jaber S. Alqahtani, et al., “Prevalence, Severity and Mortality associated with COPD and Smoking in patients with COVID-19: A Rapid Systematic Review and Meta-Analysis” PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0233147, 11, May, 2020